投稿日:2024/06/30
(最終更新日:2024/12/20)
スソワキガのミラドライで死亡!ワキガ治療を行っている美容外科には注意!【船橋中央クリニック元神賢太が解説】
脇の多汗症治療器「ミラドライ」の施術後に患者が死亡したという衝撃的な事故のニュースが報じられました。厚生労働省から認可され、安全性が確認されているはずの医療機器で、なぜこのような重大な事故が発生したのでしょうか。本記事では、わきが・多汗症治療を1万件以上行い、すそわきが治療のパイオニアとして知られる医師・元神賢太が、この医療事故の詳細と要因について詳しく解説します。
ミラドライと死亡例が発覚した経緯
ミラドライは、米国ミラドライ社が製造し、国内ではジェイメックが販売している医療機器で、重度の腋窩多汗症の治療を目的としています。この機器は2018年6月に厚生労働省の承認を受けましたが、保険診療としては認められていないため、主に自由診療を行っている美容外科で使用されています。
今回の死亡事例は、東京医科歯科大学法医学分野の温書恒氏を中心とする研究グループによって報告されました。温氏らのグループは2022年5月、日本法医学会が発行する医学誌「リーガル・メディシン」において、ミラドライ治療を受けた女性の死亡事故を発表しました。この報告により、ミラドライによる死亡事故が広く知られるようになったのです。
ミラドライの死亡報告例の論文の概要
「Fatal consequence after MiraDry® treatment: Necrotizing fasciitis complicated with streptococcal toxic shock syndrome」という題目の論文の要点は次の通りです。
ミラドライは、マイクロ波を利用した美容目的の機器で、通常は汗腺を対象にして過剰な発汗を改善するために使われます。ほとんどの国では、この機器は脇の下の治療にのみ使用されています。しかし、日本国内の健康な20代の女性が美容クリニックで、乳房、会陰部、性器、および肛門周囲を含む陰部に対してミラドライの治療を受けました。治療後、患者は持続的な発熱、痛み、陰部の治療部位の出血などの重篤な副作用を経験し、全身症状とともに容態が急速に悪化し、治療から6日目に死亡しました。
陰部の治療部位の皮膚、病院および死後の解剖で採取された血液からは、A群レンサ球菌という種類の細菌が検出されました。病院および剖検時の検体からA群溶血性レンサ球菌が検出され、敗血症性ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(腎不全、肝不全、凝固障害)といった臨床診断に基づき、死因は壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)に続発したDICおよび多臓器不全と判断されました。論文は、フルニエ壊疽を引き起こした細菌の体内への侵入が、ミラドライ治療による陰部の熱傷に起因する皮膚損傷により引き起こされたと結論付けています。
出典元:
フルニエ壊疽とは
フルニエ壊疽は一般には聞きなれない病気ですが、性器や肛門周囲の皮膚および皮下組織に急速に進行する壊死性感染症です。多くの場合、細菌感染が原因で発生します。この感染症は、性器特有の皮膚構造と細菌の感染により、皮膚と皮下組織が短期間に壊死し、壊死組織の拡大に伴って全身状態が急速に悪化します。その結果、死亡する可能性が非常に高い恐ろしい病気です。統計によれば、フルニエ壊疽に罹患した人の約50%が死亡するとされています。
↑右上はの写真はフルニエ壊疽で壊死した皮膚を除去した後
(下段の写真は再建手術の前後)
ミラドライで発生した死亡事故の原因
他の資料によると、この事例では患者が生存中に会陰部の自撮り写真を撮影しており、その写真からミラドライによるマイクロ波照射部位にIII度熱傷が発生していたことが確認されています。やけどの深さはⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3段階に分類され、Ⅲ度熱傷は最も重症です。Ⅲ度のやけどは表皮、真皮のみならず、脂肪や筋肉などの皮下組織にまで及びます。神経や血管も損傷するため、外見上白色(時には黒色)に見え、痛みの感覚もありません。
また、Ⅲ度熱傷では皮膚の防御機能が完全に失われるため、外部の細菌やウィルスが体内に侵入しやすくなります。私は自撮り写真を直接確認していないため推測に過ぎませんが、もし熱傷部位が肛門近くであれば、容易に肛門から大腸菌が熱傷部位に感染する可能性があり、その感染によりフルニエ壊疽が引き起こされたと考えられます。
ミラドライの適正使用に関する注意喚起
今回の死亡報告を受けて、2023年1月27日に以下の7つの医学会がミラドライの適正使用に関する注意喚起を発表しました。
・公益社団法人日本皮膚科学会 理事長 天谷雅行氏
・一般社団法人日本形成外科学会 理事長 森本尚樹氏
・一般社団法人日本美容外科学会(JSAPS) 理事長 武田啓氏
・一般社団法人日本美容皮膚科学会 理事長 山本有紀氏
・日本発汗学会 理事長 中里良彦氏
・公益社団法人日本美容医療協会 理事長 青木律氏
・NPO法人多汗症サポートグループ 理事一同
■注意喚起の概要
ミラドライは、エクリン汗腺に作用して、重度の原発性腋窩多汗症の治療に用いられるマイクロ波を利用した医療機器です。この度、ミラドライの適用外部位への使用に起因する可能性が高いとされる死亡例の症例報告がございました。その報告によりますと、体臭のために会陰部、性器、肛門周囲に ミラドライ治療を受けた健康な女性が、治療後に持続的発熱、持続的疼痛、治療部位からの出血 といった重篤な副作用を生じ、トキシックショック様症候群を合併したフルニエ壊疽によると考えられる急速な全身状態の悪化によって 6 日目に死亡したとされています(事故は裁判で係争中)。ミラドライの施術が死因に直接関わったかは現時点で定かではありません(筆者注:これは裁判で係争中のため、定かでないとしていますが、症例報告論文のとおりミラドライが要因なのは明らかです)。また、本事案では ミラドライが重度の原発性腋窩多汗症治療を目的に使用されていません。しかしながら、ミラドライの適正使用の内容について改めて確認をお願いする次第です。
ミラドライは高度管理医療機器・特定保守管理医療機器、つまり使用目的に沿って適正に使用されている状況で副作用や機能障害などの不具合が生じた場合、人の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあり、その適切な管理が必要とされる医療機器です。
2019 年8月の添付文書(第2版)において以下のような注意喚起がなされています。
【使用目的又は効果】 本品は、重度の原発性腋窩多汗症を治療するために使用する機器である。
【警告】 原発性腋窩多汗症の診断にあたっては、最新の原発性局所多汗症 診療ガイドラインに従うこと。[多汗症の診断や重症度の判定、発汗部位の特定を誤ると、リスク・ベネフィットのバランスを保つことが困難となる]
【禁忌・禁止】 以下の患者には適用しないこと。
・ペースメーカ又は他の電子機器が体内に埋め込まれている患者 [埋込み型医用電子機器に誤作動を招き、重大事故につながる可能性がある]
・腋窩付近に金属製のインプラント等が埋め込まれている、又は刺青のある患者 [埋め込んだ金属が発熱し熱傷をおこすことがある]
・治療部位に悪性腫瘍、又は皮膚悪性腫瘍がある患者 [悪性腫瘍の活性化の懸念がある]
【使用方法】
1.水溶性以外の潤滑剤(超音波ジェル又はIPLレーザジェル等)を使用しないこと[バイオチップの吸引孔に潤滑剤がつまり、皮膚が十分に吸引されずに熱傷をおこすことがある]
2.酸素又は麻酔を含めた可燃性ガスの周辺で本品を作動させないこと[マイクロ波が発火原因となり火災、熱傷の危険性がある]
3.腋窩以外の多汗症発症部位には使用しないこと[合併症である代償性発汗が生じた部位等に対する使用は、有効性及び安全性が確立されておらず、 重篤な不具合、有害事象が発現するおそれがある]
出典元:医療機器承認を受けた miraDry®の適正使用に関する注意喚起
ミラドライの不適切な使用とそのリスク
ミラドライは脇の多汗症にのみ有効であり、それ以外の部位や症状には効果がありません。厚生労働省が認可しているのも重度の原発性腋窩多汗症に限られ、認可の過程で行われた試験ではワキガ症には効果がないことが明確にされています。それにもかかわらず、利益を追求する一部の美容外科は、ワキガ症や脇以外の多汗症(代償性発汗)にもミラドライを使用しており、今回の死亡例でも乳輪や陰部のワキガ症(チチガ、スソワキガ)に対して使用されていました。
さらに問題なのは、これらの医療機関が「厚労省に認可された機器」としてミラドライを宣伝し、あたかもワキガ症に対して有効であるかのように誤解を招く広告を行っている点です。今回の不幸な死亡事故は、利益を最優先する美容外科の姿勢が引き起こしたものであると言えます。この事故を受け、「腋窩以外の多汗症発症部位には使用しないこと」と改めて注意喚起が行われました。
しかしながら、依然として一部のクリニックは脇以外の多汗症やワキガ症に対してミラドライを宣伝しています。これらのクリニックは患者の安全よりも利益を追求する姿勢を持っているため、絶対に治療を受けないよう強く訴えます。
スソワキガ治療にはビューホットが最適
ミラドライは、ワキガやスソワキガ、チチガに対して効果がありません。機器による治療でこれらの症状に効果があるのは、経験豊富な医師によるビューホットです。ビューホット治療は、わきがやスソワキガに対して非常に効果的であるとされています。
筆者である元神賢太は、日本で初めてスソワキガに対するビューホット治療を導入し、これまでに1000人以上のスソワキガ患者に対して治療を行ってきました。全ての患者において、治療の効果が確認されており、効果がなかった例は一例もありません。
ビューホットは、特にスソワキガに悩む方にとって最適な治療法であり、その実績と効果の高さから信頼されています。スソワキガやわきがに対する治療を検討している方は、ミラドライではなく、ビューホットを選ぶことを強くお勧めします。
まとめ
今回の死亡事故が発生したクリニックは裁判で係争中のため、どのクリニックかは特定されていませんが、担当医師が陰部の治療でフルニエ壊疽が発生するリスクを認識していたかは疑問です。もし認識していたならば、早期対応によって死亡という最悪の事態を避けられた可能性があります。
特に美容医療は、健康な体に一時的な損傷を加えて治療前よりも良好な状態にすることを目的としています。そのため、体に損傷を与えることから医師の責任は非常に重大です。患者も慎重に医師を選ぶ必要があります。広告の派手さや料金だけで美容医療を選択することは避けるべきです。
この記事が、ミラドライでの治療を検討される方にとって有益な情報となり、適切な判断をするための助けとなることを願っています。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。ビューホット治療を日本にいち早く導入。ビューホットにおけるスソワキガ治療は日本で初めて行った。これまでのスソガ、わきが治療例は延べ1万人を超える。【関連項目】
話題のすそわきが治療「ビューホット」、その真実とメリットを解明
ビューホット, すそわきが, ミラドライ, ビューホット ミラドライ比較
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