投稿日:2024/10/05
(最終更新日:2024/10/05)
SMAS筋膜(スマス)の全貌:マッサージ・美顔器の効果は?
「SMAS(スマス)」という医学用語は、かつてフェイスリフト手術を専門とする医師たちが使用する専門用語として知られていました。しかし、美容産業が急速に発展し、若返りやリフトアップといった施術が注目される今日、一般の方々の間でもその名前を耳にする機会が増えています。とはいえ、SMAS筋膜に関する情報があふれている一方で、その役割や構造を正しく理解して解説しているメディアは驚くほど少ないのが現状です。本記事では、SMAS筋膜に関する正確な知識をわかりやすくお伝えし、特に若返り治療におけるSMAS筋膜の本質的な役割について詳しく説明します。また、SMAS筋膜マッサージや美顔器に関する誤った情報がSNSや広告を通じて広がっている現状を踏まえ、それらの誤解を解消し、正しい理解を促すことを目指します。
SMAS筋膜とは
SMAS筋膜は、Superficial Musculo-Aponeurotic System(表在性筋膜系)の略称で、顔の表層に位置する筋膜層を指します。医学では単に「SMAS(スマス)」と呼ばれていますが、最近では「SMAS筋膜」という用語が日本のメディアや美容業界で広く使われるようになっています。この層は、皮膚の下にある脂肪層と筋肉層(表情筋)の間に存在し、顔面の筋肉と皮膚を結びつける役割を果たす重要な構造です。
顔の組織は、外側から皮膚、脂肪(皮下組織)、SMAS、表情筋という層構造になっており、SMAS筋膜はこの脂肪と筋肉の中間に位置するコラーゲンに富んだ線維性組織です。これにより、顔の表情や動きを支える重要な土台として機能します。
■SMAS筋膜は額から首まで広がる
SMAS筋膜(スマス)は、首の広頚筋から額の前頭筋にまで広がる広範な膜です。この層は、顔の保持靭帯(リテイニングリガメント)とも連結しており、顔の皮膚が骨や軟部組織にしっかりと固定される役割を果たしています。つまり、SMASは顔の表情や皮膚の動きを支える構造的な基盤として機能し、顔全体の安定性と若々しさを保つために不可欠な役割を担っています。
加齢で衰えるSMAS(スマス)
SMAS筋膜(スマス)は、年齢を重ねるにつれて徐々に変化し、特にその厚みと弾力が減少することで、顔のたるみや老化の重要な要因となります。この層は、主にコラーゲンとエラスチンという弾力性のある繊維から構成されていますが、加齢によりこれらの繊維が減少していくため、SMAS筋膜の柔軟性が失われ、薄くなっていきます。この変化が、顔全体の下垂やたるみを引き起こし、老化の一環として顕著に現れるのです。
さらに、SMAS層は表情筋とも密接に関わっており、加齢に伴い表情筋自体も徐々に萎縮していきます。筋肉が衰え、筋繊維が薄くなると、これがSMAS筋膜の薄化に拍車をかけ、たるみがさらに進行する原因となります。このように、SMAS筋膜の老化は、皮膚表面の変化だけでなく、顔全体の骨格や筋肉の構造にも大きな影響を与えます。
SMASの衰えが引き起こす顔の変化
顔全体にさまざまな変化をもたらします。特に、頬の下垂やフェイスラインのたるみが顕著に現れます。SMAS筋膜は顔の筋肉や皮膚を支える役割を果たしており、この支えが弱まると、中顔面(頬や鼻周り)や下顔面(あご、フェイスライン)にたるみやシワが生じ、若々しい輪郭が失われます。
さらに、SMAS筋膜は広頚筋とも連結しており、首のたるみも加齢の影響を受けます。広頚筋とSMASが共に薄くなることで、首の皮膚が弛緩し、フェイスラインから首にかけてのたるみがより顕著に現れるようになります。特に、首の筋肉が衰えると、広頚筋の下にある脂肪や皮膚が下がり、“ターキー・ネック“と呼ばれる首のたるみが強調されることがあります。
SMASの引き締め・引き上げが若返りのポイント
加齢により衰えたSMAS筋膜(スマス)を引き締め、リフトアップすることは、現代の美容治療において若返り効果を得るための重要なアプローチです。特に、外科的なフェイスリフト手術では、たるんだSMAS(スマス)を引き上げることで、自然なリフトアップとともに若々しい輪郭を取り戻すことが可能です。スマス法切開フェイスリフト手術では、皮膚だけでなく、SMAS(スマス)に対しても直接アプローチすることで、長期的な効果が期待できます。
近年では、ハイフ(HIFU:高密度焦点式超音波)などの非侵襲的な技術が登場し、SMAS筋膜に対して手術を伴わずにアプローチできる方法として人気を集めています。ハイフは、超音波の熱エネルギーをSMAS層に照射し、コラーゲン生成を促進しながら組織を引き締め、顔のたるみを改善します。
このように、SMAS筋膜の引き締めや引き上げをターゲットにした治療法は、外科的手術から非侵襲的なハイフまで幅広く進化しており、いずれも若返りを目指すための効果的なアプローチとなっています。
切開フェイスリフトにおけるSMAS筋膜の役割
切開フェイスリフト手術において、SMAS筋膜(スマス)は極めて重要な役割を果たします。この筋膜層を引き上げることで、持続的で自然なリフトアップ効果を実現でき、皮膚のみを引き上げる従来のミニリフト手術に比べ、顔全体の仕上がりが格段に自然になります。特にSMASを再配置することで、顔のたるみを根本から改善し、頬、あご、首に見られるたるみをしっかりと持ち上げることが可能です。
■SMASフェイスリフトの利点
・長期持続性
SMAS層をターゲットにしたフェイスリフトは、皮膚だけを引き上げる施術に比べ、より深い層にアプローチするため、その効果が長く持続します。一般的には、SMASフェイスリフトは8年以上効果が続くことが多く、年齢を重ねた後も自然なリフトアップ効果を維持することができます。
・自然な仕上がり
SMASは表情筋を含む層であるため、この層をリフトして再配置することで、術後も自然な表情が保たれます。顔の動きに合わせた引き上げが行われるため、過度に引きつったり、不自然な仕上がりになるリスクが大幅に軽減されます。
・広範囲のリフト効果
SMASフェイスリフトは、中顔面から下顔面、さらには首に至るまで、広範囲のたるみに対応できる点が大きな特徴です。単なる皮膚のリフトでは対応しきれない頬や首の深い構造的なたるみも、SMAS層に働きかけることで改善され、若々しいフェイスラインが蘇ります。
↑SMAS法のよるフェイスリフト手術前後
SMASを強力に引き締めるウルセラ
ウルセラは、ハイフ(HIFU:高密度焦点式超音波)を使用した画期的なリフトアップ治療法として知られています。ハイフ技術を搭載した最初の治療機器であり、現在もFDA(アメリカ食品医薬品局)によって唯一認可されているハイフ機器です。この技術は、メスを使わずにリフトアップ効果を得たい方にとって、非常に魅力的な選択肢となっています。
■ハイフ(高密度焦点式超音波)とは?
ハイフは、集中的な超音波エネルギーを皮膚の深部、特にSMAS層や真皮層に照射し、熱エネルギーを利用して組織を引き締める治療法です。皮膚の表面を傷つけることなく、内部に高い温度を生じさせるため、コラーゲンの生成が促進され、結果として長期的なたるみ改善が期待できます。
■ウルセラの治療メカニズム
ウルセラのハイフは、約60〜70℃の高温をSMAS筋膜(スマス)に直接到達させることで、局所的な熱損傷を引き起こします。この損傷は、体の自然な修復過程を引き起こし、新しいコラーゲンが生成されることで、SMAS層が引き締まり、たるみが改善されるのです。このプロセスにより、皮膚の弾力が増し、切開を伴うフェイスリフト手術に近いリフトアップ効果が期待できます。治療後も効果は徐々に進行し、最大で3か月後に最良の結果が得られることが多いです。
■ウルセラの持続効果
ウルセラの効果は、コラーゲン生成のプロセスが続くことで、治療後2〜3か月後にピークを迎え、その後1〜2年間持続するとされています。このため、長期的なたるみ改善を望む方にとって、ウルセラはメンテナンスしやすい治療法となっています。継続的な治療により、若々しい外見を保つことが可能です。
↑ウルセラの治療前後
SMAS筋膜マッサージについて
「SMAS筋膜マッサージ」と呼ばれる施術が、一部の整体師やメディアで顔のたるみ改善に効果的だと宣伝されています。しかし、これには科学的根拠がまったくなく、むしろ長期的にはたるみを悪化させる可能性があります。SMAS(スマス)は非常に深い層に存在し、単なる表面のマッサージではこの層に効果的にアプローチすることは不可能です。
■SMASマッサージの効果に関するエビデンスの欠如
SMASは皮膚の下にある筋膜であり、皮膚や脂肪層を通じて直接的にマッサージで効果を与えることは非常に困難です。現時点で、マッサージがSMAS層に影響を及ぼすという科学的証拠は確認されていません。たるみの原因は、主に加齢によってコラーゲンやエラスチンといった弾性繊維が減少することにあります。顔のマッサージで一時的に血行が促進され、肌が引き締まったように感じることはあるものの、これが根本的なたるみの改善に繋がるという信頼できる科学的データはありません。
■マッサージがたるみを悪化させるリスク
顔の皮膚は非常にデリケートで、繰り返し強い力でマッサージを行うと、コラーゲンやエラスチンが損傷し、皮膚や皮下組織にダメージを与えるリスクがあります。過度の摩擦や引っ張りによって、皮膚が弾力を失い、たるみがさらに悪化する可能性があります。特に不適切な手法で行われるマッサージは、逆効果となることが懸念されています。また、一部の研究では、皮膚に対する慢性的な圧力が、コラーゲン分解を促進する酵素MMP(マトリックスメタロプロテイナーゼ)の活動を加速させ、結果的にシワやたるみを進行させるリスクを高める可能性が示唆されています。
■シミや肝斑への影響
顔への摩擦や刺激が色素沈着を引き起こし、シミや肝斑が発生するリスクも指摘されています。特に敏感肌やアトピー肌の方は、マッサージによってメラニンの過剰生成が促され、色素沈着が進行する恐れがあります。肌を過度に刺激するマッサージは、たるみだけでなくシミや肝斑を悪化させる可能性があるため、慎重な対応が必要です。
美顔器や顔トレの有効性について
顔の筋肉を鍛える美顔器や「顔トレ」が、SMAS筋膜(スマス)や表情筋を強化し、たるみ予防に効果があるかどうかについては、現時点で明確な科学的エビデンスは存在しません。表情筋の強化が直接的にSMAS層に作用し、たるみを改善するという証拠も見つかっていないのが実情です。
■美顔器の理論的な効果
多くの美顔器は、顔の表情筋を刺激して血行を促進し、筋肉の引き締めを図ることを目的としています。顔の筋肉を鍛えることで、表情筋が強化され、皮膚が支えられることでたるみが軽減するという理論はあります。しかし、これらの効果は筋肉に限られており、SMAS筋膜(スマス)そのものを鍛えるという科学的メカニズムに関しては、明確な証拠が不足しています。SMAS層は結合組織で構成されており、表層の筋肉を鍛えることがその層にどれほどの影響を与えるかについての研究はほとんど行われていません。
■現在の科学的エビデンス
2018年にJAMA Dermatologyで発表された研究では、顔のエクササイズが頬の若返りに一定の効果をもたらす可能性が示唆されています。しかし、この研究は美顔器を使用したものではなく、またSMAS層に対する影響には触れられていません。また、研究対象者がわずか27名と少数であったため、結果に対して懐疑的な見解が多く、その後、同様の結論を裏付ける研究は発表されていないのが現状です。一方、EMS(電気筋刺激)や微弱電流を使用する美顔器が、一時的に顔の筋肉を引き締める効果があることが報告されていますが、これがSMAS層にどう影響するか、またその長期的な効果については検証されておらず、現段階では信頼できるエビデンスはありません。
さらに、口にくわえるタイプの美顔器や顔トレを用いて筋肉をトレーニングすることで、リフトアップやたるみ予防が期待できるとされていますが、これらの効果が持続し、長期的にたるみを防ぐことができるという証拠は今のところ存在していません。
出典元:Association of Facial Exercise With the Appearance of Aging
■リスクと注意点
顔の筋肉を鍛える美顔器や顔トレには、正しい使用が重要です。過度のトレーニングや不適切な使用は、筋肉に負担をかけるだけでなく、逆にシワを増やすリスクもあります。特に長期にわたり過度に使用することで、顔の構造に悪影響を与える可能性があるため、使用には十分な注意が必要です。
現状では、顔の美顔器がSMASを鍛え、たるみを予防できるという科学的な証拠は存在しません。正しい情報に基づいたケアが、効果的なたるみ予防のために重要です。
まとめ
顔のたるみ改善において、SMAS筋膜(スマス)は極めて重要な役割を担っています。美容外科では、SMASをターゲットにしたウルセラ(ハイフ治療)や、SMAS法を用いた切開フェイスリフトが用いられており、これらの施術により高い若返り効果が期待できます。これらの方法は、科学的根拠に基づいた効果的な治療法として広く認知されています。
一方で、顔のマッサージや美顔器によるケアについては、長期的な効果を裏付けるエビデンスが不足しており、逆にたるみを悪化させるリスクも指摘されています。そのため、医師としてはこれらの方法を推奨しません。
このブログ記事を通じて、SMAS筋膜に関する正しい知識が得られ、今後の美容ケアや治療の参考になれば幸いです。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。美容外科医として20年以上のキャリアがあり、アンチエイジング治療、リフトアップ治療を得意としている。日本美容外科学会で「スプリングスレッドを併用したフェイスリフト手術」で学会発表し、好評を得た。また、形成外科学会での勉強会においても講演をおこなっている。ウルセラについても日本国内に導入直後から取り入れており、日本美容外科学会でもウルセラの学会発表を行っている。【関連項目】
フェイスリフト, ウルセラ, ハイフ, 切開フェイスリフト, SMAS
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