投稿日:2025/04/28
(最終更新日:2025/04/28)
精神的ストレスが女性の薄毛に与える影響:最新研究をもとに解説
(第34回「行き過ぎたダイエットや偏食が引き起こす女性の薄毛リスク」からの続き)
仕事や家庭のことで強いストレスを感じた後に、「なんだか抜け毛が増えた気がする…」と感じたことはありませんか?実は、精神的ストレスと髪の健康には深い関係があることが近年の研究でわかっています。特に女性はホルモンバランスの変化も加わるため、ストレスによる薄毛リスクに注意が必要です。本記事では、海外の最新医学文献の知見をもとに、ストレスが女性の髪に及ぼす影響について解説します。ストレスホルモン(コルチゾール)の作用やエストロゲン低下との関係、睡眠不足や栄養不足など二次的な影響、そして髪を守るための対策について、具体例を交えながら解説します。
ストレスホルモン「コルチゾール」が髪に与える影響
強い精神的ストレスを感じると、私たちの体内ではコルチゾールと呼ばれるストレスホルモンが分泌されます。コルチゾールは本来、危機に対処するために血圧や血糖値を上げる重要なホルモンですが、慢性的に分泌が高まると髪の成長サイクルに悪影響を及ぼします。大きなストレスがかかったとき、多くの毛包(毛穴にある髪を生やす組織)が本来の成長期から休止期(お休み状態)に移行してしまい、しばらく経ってから一斉に抜け落ちることがあります。この現象は「休止期脱毛(Telogen Effluvium)」と呼ばれ、出産や急なダイエットなど体の大きな変化でも起こることがありますが、精神的ストレスもその引き金になります。
では、なぜストレスで毛包が休止期に入ってしまうのでしょうか?2021年に発表されたハーバード大学の研究はそのメカニズムを明らかにしました。この研究ではマウスに慢性的なストレスを与えたところ、ストレスによるホルモン増加により毛包の幹細胞が長い間「休止期」に留まり、新しい髪が生えてこなくなってしまいました。ストレスで増える副腎由来のホルモンが毛包幹細胞への成長シグナルを阻害し、毛包を休止状態にとどめてしまったのです。つまり、コルチゾールが慢性的に高い状態だと髪の毛は常にお休みモードになり、抜け毛ばかりで新しく生えてこないという状況が起こり得ます。
幸い、ストレスによるこうした脱毛は一時的なものである場合がほとんどです。実際、米国メイヨークリニックの専門家によれば、ストレスをコントロールできれば髪は再び成長期に戻り、抜け毛も改善する可能性があります。大切なのは「ストレスを抱えっぱなしにしない」ことであり、それが髪の健康を守る第一歩と言えるでしょう。
参照元:Healthy Lifestyle:Stress management
エストロゲン減少と毛髪成長の関係
女性にとってもう一つ見逃せないのが、ストレスによるエストロゲン(女性ホルモン)の変動です。ストレスがかかると、女性ホルモンのエストロゲンが減少してしまいます。「ス トレスで生理が止まる場合がある」ことは、女性なら耳にしたことがあるでしょう。
エストロゲンは女性らしい体を作るホルモンですが、実は髪の成長を助ける働きもあります。毛包にはエストロゲン受容体(エストロゲンを感じ取るセンサー)が存在し、エストロゲンが十分にあると髪の成長期(アナゲン)が長く維持されることが知られています。逆にエストロゲンが減少すると髪の成長サイクルが短くなり、毛が細く弱々しくなったり抜け毛が増えたりする傾向があります。
具体例として、産後の抜け毛がわかりやすいでしょう。妊娠中、女性の体内ではエストロゲンが普段より多く分泌されます。高いエストロゲンのおかげで妊娠中は髪が抜けにくくなり、「髪が増えてツヤツヤする」と感じる方もいます。しかし出産後、エストロゲンの分泌量が急激に元のレベルまで低下すると、それまで成長期を維持していた毛包の多くが休止期に移行してしまいます。その結果、産後数か月してから一時的に大量の抜け毛が発生することがあります。これは「産後脱毛(分娩後脱毛症)」と呼ばれる現象で、ホルモン変動による休止期脱毛の一種です。実際、妊娠末期に増加したエストロゲンが出産後に低下することで、髪が一斉に休止期に入り抜け落ちるメカニズムが報告されています。
また更年期(閉経)もエストロゲンと髪の関係を考える上で重要です。閉経前後の女性では卵巣機能の低下によりエストロゲン分泌が大きく減少します。その結果、髪のハリやコシが弱まり、ボリュームダウンや抜け毛を自覚する方が増えます。閉経期における髪の変化の主な原因はエストロゲン低下であり、実際に閉経前後の女性では毛の成長速度や太さが低下することが観察されています。
このようにエストロゲンは髪の成長には必要不可欠ですが、ストレスがかかると、女性ホルモンのエストロゲンが減少してしまいます。
睡眠不足と成長ホルモン、髪の関係
ストレスの悪影響はまだあります。これは二次的な要因ですが、ストレスがあると不眠がちになり、睡眠不足となることが珍しくありません。
しかし、実は睡眠は髪の成長に欠かせない時間なのです。睡眠中、とくに深い眠り(ノンレム睡眠)の間に脳下垂体から成長ホルモンが分泌されます。この成長ホルモンは細胞の修復や再生を促す役割を持ち、「大人にとっても髪やお肌のゴールデンタイムは睡眠中」と言われる所以です。実際、私たちの体内で分泌される成長ホルモンの約75%は睡眠中に放出されることが報告されています。しっかり眠ることが髪を含めた身体の回復に重要なのです。
一方、睡眠不足が続くとどうなるでしょうか。十分に眠れない状態が続くと成長ホルモンの分泌量が減少し、細胞の修復や毛髪の再生が追いつかなくなる恐れがあります。医学的にも、成長ホルモンが慢性的に不足する病態では髪が細くなったり抜け毛が増えたりすることが知られています。さらに、睡眠不足そのものが体にストレスとなり、先述のストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を増加させてしまいます。
このようにストレスが睡眠不足を起こし、睡眠不足がストレスを増加させ、負のスパイラルが生じることで、ストレスによる「成長ホルモン低下」と「コルチゾール増加」の両面で髪にダメージを与える可能性があるのです。
最近の研究からも、睡眠と髪の関係を裏付ける興味深いデータが出ています。2024年のある実験では、昼夜のサイクルを乱すような照明環境(明暗を通常と逆転させる照明リズム)にマウスを置くと、毛の成長速度が明らかに低下し抜け毛が増えることが報告されました。これは睡眠リズムの乱れが毛髪の成長に悪影響を与えたことを示唆しています。不規則な生活や夜更かし、交代制勤務などで体内時計が狂うと、同じように髪の成長サイクルが乱れてしまう可能性があります。
精神的ストレスが引き起こす二次的影響(食欲不振・栄養不足・血行不良など)
精神的ストレスはホルモンや睡眠に直接影響するだけでなく、私たちの生活習慣にもさまざまな変化を引き起こします。強いストレス下では食欲が落ちてしまい、食事の量が減ったり内容が偏ったりしがちです。また、ストレスを感じているとき私たちの自律神経は興奮状態(交感神経優位)になり、全身の血管が収縮しやすくなります。その結果、体の隅々(手足や頭皮など)の血行が悪くなることがあります。こうした栄養不足や血行不良といったストレスによる二次的な変化も、髪にとって無視できないダメージとなります。
まず栄養面から見てみましょう。髪の毛は主成分がケラチンというタンパク質でできており、健康な髪を作るには十分なタンパク質と、鉄分・亜鉛・ビタミン類などさまざまな微量栄養素が必要です。ところがストレスで食欲不振に陥ったり、「忙しくて食事を抜いてしまう」「簡単な炭水化物ばかりで済ませる」といった状態が続くと、毛髪に必要な栄養素が慢性的に不足する恐れがあります。実際、急激なダイエットや重度の食事制限によって短期間で体重を落とすと、髪の毛が一斉に抜けてしまう急性の休止期脱毛(いわゆる激やせによる抜け毛)が起こることが知られています。また、鉄分不足(鉄欠乏)は世界で最も一般的な栄養欠乏症であり、鉄欠乏はよく知られた脱毛の原因でもあります。女性は月経などで鉄不足になりやすいですが、ストレスで偏食が続くとさらに鉄や亜鉛が欠乏し、慢性的な休止期脱毛や女性型脱毛症を悪化させる一因となり得ます。つまり、ストレスによる食欲不振・栄養不足も薄毛を招く大きな要因なのです。
次に血行不良の影響です。ストレスを感じると心拍数が上がったり筋肉が緊張したりしますが、同時に皮膚の血管はキュッと収縮しやすくなります。これは「闘争・逃走反応」といって、ストレス時に体が重要な臓器に血液を集中させる生存本能の反応です。そのため強いストレス下では頭皮など末端の血管が収縮し、頭皮への血流が低下しやすくなります。頭皮の血行が悪い状態が続くと、毛根(毛を作る工場)に十分な酸素や栄養が届けられず、髪の成長力が落ちてしまう可能性があります。
上記の図について:毛髪の成長サイクルとそれに影響を与える要因の模式図。右側のオレンジ色の矢印で示された「炎症」「ホルモンバランスの乱れ(甲状腺ホルモンやDHTの過剰など)」「ストレス増加」「栄養不足」「薬剤の影響」といった要因は、毛包を成長期(Anagen)から休止期(Telogen)へ移行させ、抜け毛を増やす方向に作用します。一方、左側の緑色の矢印で示された「血行の促進」「成長因子の増加」「毛包への直接刺激」などの要因は、休止期から成長期への移行を促し、髪の成長を助けます。ストレスはご覧のとおり右側の薄毛要因をいくつも引き起こすため、複合的に髪にダメージを与え得るのです。
このように、精神的ストレスはホルモンバランスの乱れ(コルチゾール増加・エストロゲン低下)、睡眠障害(成長ホルモン分泌低下)、食欲不振・栄養不足、血行不良といった複数の経路で髪に影響を及ぼします。まさに「ストレスは髪の大敵」と言えるでしょう。反対に言えば、ストレスを上手にコントロールし生活習慣を整えることで、傷んだ髪の回復を促すことができるはずです。
参照元:Integrative and Mechanistic Approach to the Hair Growth Cycle and Hair Loss
ストレス対策や髪を守るためのアドバイス
ストレスと薄毛の関係をここまで見てきて、「ストレスをためないことが大事なのは分かったけど、実際どうすれば…?」と感じられたかもしれません。ここでは、医学的根拠に基づいたストレス対策や髪を守る方法をやさしくご紹介します。ポイントは、生活習慣の改善と専門家の力を借りることです。できるものから少しずつ試してみましょう。
まず知っておいていただきたいのは、ストレスが原因の薄毛は必ずしも永久的ではないということです。十分なケアによってストレスを和らげることができれば、乱れていた毛髪サイクルが正常に戻り、再び髪が生えてくる可能性があります。事実、ストレスが解消された後に「抜け毛が減って髪が元に戻った」という人は少なくありません。ですから過度に思いつめず、できることから対処していきましょう。
リラックスできる時間を意識的に作る
忙しい日々でも1日の中でホッとできる時間を持つことは、ストレス軽減にとても効果的です。例えば深呼吸や瞑想、軽いストレッチ、入浴、アロマや音楽を楽しむなど、自分なりのリラックス法を見つけてみましょう。こ
十分な睡眠を確保する
良い睡眠は髪を育てる基本です。毎日できるだけ規則正しいリズムで7〜8時間の睡眠を目指しましょう。寝る前のスマホやカフェインを避け、ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、ストレッチをするなどリラックスできる入眠習慣をつけると睡眠の質が高まります。しっかり熟睡できれば成長ホルモンが十分に分泌され、日中のストレスで上がったコルチゾールもリセットされます。
栄養バランスの良い食事を心がける
ストレスを感じるときほど、体と髪をいたわる食事を意識しましょう。髪の主成分であるタンパク質は毎食しっかりと(肉・魚・大豆製品・卵など)、加えて鉄分(レバー、赤身の肉、ほうれん草、ひじきなど)や亜鉛(魚介、ナッツ類)、ビタミン類(緑黄色野菜やフルーツ)もバランス良く摂取することが大切です。
適度に体を動かして血行促進
軽い運動はストレス発散になるだけでなく、全身の血行を良くし頭皮にも栄養を送り届けてくれます。ウォーキングやヨガ、簡単なストレッチなど、自分が気持ちよく続けられる運動を取り入れてみましょう。
まとめ
このブログでは精神的ストレスが髪に与える影響と、そのメカニズムや対策について解説してきました。ストレスと薄毛の関係は決して無視できませんが、裏を返せばストレスを上手にコントロールし生活習慣を整えることで髪はちゃんと応えてくれるということでもあります。今日お伝えした内容を参考に、ぜひできるところから実践してみてください。
また、必要に応じて専門家に相談しましょう。毛髪専門クリニックでは、必要に応じてミノキシジルなどの発毛治療薬の検討や、栄養指導を受けることもできます。
髪の毛は私たちの体調や心の状態を映す鏡です。無理をしすぎず心身の健康を保つことが、結果的に美しい髪を育む一番の近道と言えるでしょう。あなたの髪と心の健やかさを、心より応援しています。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。これまで延べ5万以上の薄毛治療を行う。著書に「専門医が徹底解説!女性の薄毛解消読本」(元神賢太著 / 幻冬舎)。女性の薄毛治療のほか、エイジングケア治療、美肌治療を得意としている。
【関連項目】
行き過ぎたダイエットや偏食が引き起こす女性の薄毛リスク(第34回)
女性薄毛の根本的原因:加齢による女性ホルモンの低下【女性薄毛対策第33回】
女性の薄毛・脱毛症の種類と症状:FAGAだけではない原因【女性薄毛対策第32回】
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