投稿日:2024/10/14
(最終更新日:2024/10/31)

男性型薄毛のAGAに悩む女性が急増:FAGAを理解するために

女性薄毛

(第30回「髪の発毛劇的な力を発揮する細胞成長因子」からの続き)

薄毛の悩みは、なぜ人々の間でこれほどまでに広がっているのでしょうか?かつては豊かで黒々とした髪が、徐々に薄くなってしまうのは、いったい何が原因なのでしょうか?薄毛が進行していく過程や、その始まりにはどんなメカニズムが隠されているのでしょうか。そして、薄毛になる人と、そうでない人の違いは何なのでしょうか?髪のボリュームが気になり始めた方、すでに薄毛に悩んでいる方、将来的な薄毛が心配な方など、多くの人々がこのような疑問を抱えていることでしょう。本記事では、まず男性に多く見られる薄毛のメカニズムについて詳しく見ていきます。従来、薄毛は男性特有の悩みと考えられてきましたが、近年では女性にも薄毛に悩む方が急増しています。特に、女性特有の薄毛であるFAGA(女性男性型脱毛症)は、男性の薄毛(AGA:男性型脱毛症)と非常に似た症状を示すことがわかっています。したがって、男性の薄毛について理解を深めることは、女性の薄毛対策を考える上でも非常に有益であると言えるのです。

AGAFAGA

男性の薄毛の最も一般的な原因として知られているのが「Androgenetic AlopeciaAGA(男性型脱毛症)」です。これは直訳すると「男性ホルモン依存性脱毛症」という意味で、男性ホルモンが脱毛の発症に深く関わっているため、このように呼ばれています。日本国内では、成人男性のおよそ7割が生涯のどこかでAGAを発症するとされています。しかし、AGA(エージーエー)は男性特有のものではなく、女性にも同様の脱毛症状が現れることがあります。その場合、「Female Androgenetic AlopeciaFAGA:女性男性型脱毛症)」と呼ばれ、FAGA(エフエージーエー)は女性の薄毛症例の約半数を占めています。男性型脱毛症と同様に、女性のFAGAも進行すると頭頂部の毛が薄くなり、髪のボリュームが失われることがあります。AGAFAGAは似たメカニズムで発症するため、男性型脱毛症についての理解を深めることが、女性の薄毛治療においても非常に役立つのです。

 

「専門医が徹底解説!女性の薄毛解消読本」(元神賢太著 / 幻冬舎)

AGAの進行パターン

AGAの進行パターン

男性がAGAを発症すると、まず額の生え際や頭頂部の毛髪が軟毛化し、次第に細く短くなっていきます。初期段階では、髪が薄くなり、コシやハリが失われていくことが特徴です。この進行がさらに進むと、生え際が後退し、頭頂部の毛髪も徐々に薄くなり、最終的には毛が抜け落ちることが一般的です。AGAの進行パターンにはいくつかのバリエーションがあり、額の生え際から後退していく「M字型」タイプの他に、頭頂部から薄毛が始まる「O字型」タイプも存在します。また、これらが同時に進行する「U字型」タイプの薄毛も少なくありません。さらに、進行速度は個人差があり、短期間で急激に進む場合もあれば、ゆっくりと時間をかけて進行するケースもあります。遺伝的要因やホルモンバランス、生活習慣などが影響を与え、AGAの進行の仕方に違いが生じるのです。

薄毛の本質:毛周期のミニチュア化

AGが発症すると、髪の毛にはどのような変化が起こるのでしょうか?髪の成長は「毛周期」と呼ばれるサイクルで管理されており、成長期、退行期、休止期の3つの段階を経ます。通常、男性の場合、成長期は35年、女性では46年続くとされますが、AGAFAGAではこの成長期が著しく短縮されます。その結果、髪の毛は十分に成長しないまま、細く短い状態で抜け落ちてしまうことが多くなります。これにより、健康な髪の毛に見られる太く硬い毛髪が、徐々に柔らかく細い「軟毛」へと変化してしまう現象が進行するのです。

さらに重要なのが、毛包自体の「ミニチュア化」(下記イラスト)です。AGAが進行すると、毛包が徐々に小さくなり、毛髪を生み出す能力が低下します。これにより、毛周期全体が加速してしまい、髪が短期間で抜け落ちるサイクルが繰り返されるようになります。これを「毛周期のミニチュア化」と呼び、AGAの根本的なメカニズムとされています。最終的には、毛包の働きがほぼ停止し、髪の毛が完全に消失する場合もあります。このミニチュア化こそが、薄毛を見た目に大きく影響させる要因なのです。

毛周期のミニチュア化

男性ホルモンとAGAの関係

AGAの発症に大きく関わっている要因の一つが「男性ホルモン」です。しかし、男性ホルモン自体が単独で薄毛を引き起こすわけではありません。毛包内には「5α-リダクターゼ」という酵素が存在し、血中には「テストステロン」という男性ホルモンが循環しています。この2つが毛乳頭で出会い、酵素による作用で「ジヒドロテストステロン(DHT)」が生成されます。DHTはテストステロンよりも強力なホルモンで、受容体と結合する力が510倍も高いと言われています。

DHTが男性ホルモンのレセプター(受容体)と結合すると、毛包内でさまざまな遺伝子に影響を与え、その結果、薄毛が進行します。特に「TGF-β1」という細胞成長因子が遺伝子の指令で発現し、このTGF-β1は毛包周囲の線維化(瘢痕化)を促進し、毛包の上皮細胞の成長を阻害します。このようなプロセスが繰り返されることで、毛髪が十分に成長できなくなり、結果として成長期の毛が休止期に移行してしまうのです。

TGF-β1は「毛包の暗殺者」とも呼ばれるほど強力な影響を持ち、毛包の退行を加速させることが確認されています。このため、AGAが進行すると、髪の毛は成長せず、細く短い軟毛に変わり、最終的には抜け落ちてしまいます。

遺伝とホルモン受容体の関係

これまで男性ホルモンや「レセプター(受容体)」という言葉が登場しましたが、この受容体が薄毛に深く関わっていることをご存知でしょうか?ホルモンが体内で効果を発揮するためには、細胞が特定のホルモンを受け取るためのレセプターを持っている必要があります。これを「ホルモン感受性」と呼びます。そして、薄毛になるかどうかの重要な分岐点は、この男性ホルモンのレセプターを持っているか否かにかかっているのです。

もし男性ホルモンのレセプターを持っていれば、そのホルモンの影響を強く受け、薄毛が進行する可能性が高まります。一方で、レセプターがない場合、その影響を受けにくく、薄毛になるリスクは低くなります。興味深いことに、このレセプターの有無には遺伝が大きく関与しているとされています。親から遺伝的にレセプターを受け継ぐと、薄毛になりやすい傾向が見られます。これが「薄毛は遺伝する」と言われる理由の一つです。つまり、薄毛そのものが遺伝するわけではなく、男性ホルモンのレセプターを持つ遺伝的な体質が引き継がれるのです。

ただし、AGAは単純な遺伝だけでは説明できない多因子性疾患です。環境や生活習慣、ホルモンバランスなどの複数の要因が絡み合い、薄毛が進行します。また、女性にも男性ホルモンが存在するため、女性もAGA(女性型脱毛症:FAGA)を発症する可能性があります。特に50歳以下の女性の約6%、70歳以上の女性では3040%がFAGAに悩んでいると言われています。このように、ホルモン受容体と遺伝の関係は、男女を問わず薄毛に深い影響を与えているのです。

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まとめ

女性の薄毛で最も多いFAGA(女性男性型脱毛症)の発症メカニズムは、男性のAGAと多くの共通点を持っています。そのため、女性にとってもAGAの理解が重要です。AGAは、男性ホルモンであるジヒドロテストステロン(DHT)が中心的な役割を果たし、毛周期のミニチュア化を促進します。この過程で、髪の毛は十分に成長できず、最終的に細く短いまま抜け落ちることが薄毛の原因となります。薄毛に悩む女性にとって、AGAのメカニズムを理解することで、FAGAへの対策も見えてくるでしょう。この記事が、女性の薄毛に対する理解を深め、適切な治療や予防の一助となれば幸いです。薄毛は早期に対処することで改善が期待できるため、専門家のアドバイスを積極的に活用していただきたいと思います。

 

筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。これまで延べ5万以上の薄毛治療を行う。著書に「専門医が徹底解説!女性の薄毛解消読本」(元神賢太著 / 幻冬舎)。女性の薄毛治療のほか、エイジングケア治療、美肌治療を得意としている。

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