投稿日:2024/12/03
(最終更新日:2024/12/03)
クルスカの危険性:有名モデルが警鐘を鳴らす「逆説性脂肪過形成」
クールスカルプティング(通称:クルスカ)やクールテックなど、脂肪冷却機器を使用した脂肪溶解治療は、高い効果と安全性が謳われ、多くの人々に選ばれている人気の美容施術です。しかし、この治療には稀ながら見逃せない副作用が存在します。それが、逆説性脂肪過形成(Paradoxical Adipose Hyperplasia: PAH)と呼ばれる合併症です。この症状は、治療を受けた部位の脂肪が減少するどころか、むしろ増加し硬くなってしまうという予期せぬ現象を引き起こします。
日本国内ではこの合併症の報告例はほとんどないものの、スーパーモデルとして世界的に知られるリンダ・エヴァンジェリスタさんが、自身の体験を公に語り、PAHに苦しむことをインタビューで語ったことで大きな注目を集めました。2024年12月1日にはヤフーニュースが再び彼女の発言を取り上げたことで、この副作用への関心が再燃しました。本記事では、リンダ・エヴァンジェリスタさんの過去のインタビュー内容を掘り下げるとともに、逆説性脂肪過形成に関する最新の医学的知見を詳しく解説していきます。美容医療を検討している方々にとって、リスクを理解し、正しい選択をするための参考となる内容をお届けします。
出典元:元祖スーパーモデル(59)、整形失敗で「脂肪のかたまり」が飛び出た状態に…当時の辛い心境を振り返る
リンダ・エヴァンジェリスタとは
リンダ・エヴァンジェリスタ(Linda Evangelista, 1965年5月10日生まれ)さんは、カナダ・オンタリオ州セントキャサリンズ出身のスーパーモデルで、ファッション界において「カメレオン」として名を馳せました。この異名は、変幻自在なスタイルと卓越したプロフェッショナリズムに由来します。彼女は1980年代後半から1990年代にかけて、ナオミ・キャンベルさんやシンディ・クロフォードさんらとともに「スーパーモデル黄金期」の中心的存在として、ファッション界を象徴する存在となりました。
日本国内でもリンダさんの人気は高く、1990年代には銀座ジュエリー・マキなど、数多くのCMや広告に出演しました。彼女の気品あふれる美しさと洗練されたオーラは、日本市場においても絶大な影響を与え、その名声を不動のものとしました。これらの広告は、日本の消費者にとって、リンダを「世界的スーパーモデル」として認識させる大きな役割を果たしました。
リンダさんはその後もモデルとしての活動を続け、2022年にはフェンディのバゲット発売25周年記念キャンペーンに参加。さらに15年ぶりにランウェイに復帰し、堂々とフィナーレを飾り、観客からの拍手喝采を浴びました。長いキャリアを持ちながらも、新たな挑戦を続ける彼女は、ファッション業界の象徴であり続けています。
過去のインタビューで語ったクルスカの合併症
スーパーモデルとして輝かしいキャリアを築いてきたリンダ・エヴァンジェリスタさん。しかし、彼女は2015年に脂肪を冷却して縮小するFDA(アメリカ食品医薬品局)承認済の施術「クールスカルプティング(クルスカ)」を受けたことで、大きな転機を迎えることになります。この施術は外科手術を必要とせず、特定の部位の脂肪を分解してボディラインを整えることが可能とされ、多くの人々に支持されている方法です。リンダさんは顎、太もも、バスト周辺をターゲットに合計7回の施術を受けましたが、数か月後に衝撃の事実に直面します。期待していた効果が現れないどころか、施術部位に余計に脂肪が付いてしまったのです。
『People』誌のインタビューで彼女は、「脂肪が硬くなり、感覚を失った膨らみに変形してしまった」と語り、その経験の辛さを吐露しました。さらに、自分の努力で元に戻そうと過酷なダイエットやエクササイズに取り組み、時には食事を断つほどの状態にまで追い込まれたといいます。「正気を失いつつあった」と振り返る彼女は、苦しみの中で医師から「逆説性脂肪過形成(PAH)」という稀な副作用の診断を受けました。この副作用は、脂肪が縮小する代わりに逆に増大し、硬く変質するというものです。
リンダさんはPAHを改善しようと、自費で2016年と2017年に脂肪吸引手術を受けましたが、改善どころか再びPAHが発症。変形した部位はドレスの下で摩擦を引き起こし、時には出血を伴うほどの硬さを持っていました。ポージングにも支障をきたし、「両腕を体の脇に自然に添えることすらできない」と語る彼女は、PAHによる変形をデザイナーに見せ、「これでは私に服を着せたいと思わないでしょう」と嘆きました。「鏡を見るのが恐ろしい」とも述べ、自分の変わり果てた姿に向き合う苦悩を明かしています。
2021年9月、リンダさんはクールスカルプティングの親会社であるゼルティック・エステティクス(Zeltiq Aesthetics Inc.)を提訴。この施術による身体的・精神的苦痛、そして仕事を失った損害を理由に5000万ドルの賠償を求めました。最終的には2022年7月に和解に至ったと発表されていますが、和解の詳細や金銭的条件については明らかにされていません。この事件は、クールスカルプティング(クルスカ)のリスクについて再び注目を集めるきっかけとなりました。
逆説性脂肪過形成(PAH)とは
逆説性脂肪過形成(Paradoxical Adipose Hyperplasia: PAH)は、冷却脂肪分解治療において極めて稀に発生する副作用です。本来、脂肪細胞を減少させることを目的とした治療部位で、逆に脂肪が増加し硬化するという、予期せぬ結果をもたらします。この現象は、治療後2~5か月の間に発症することが多く、外観上の変化だけでなく、患者にとって精神的・身体的負担を伴う問題となることがあります。PAHの治療には、脂肪吸引などの外科的処置が必要となる場合が多く、完全に解消するのが難しいケースも報告されています。
逆説性脂肪過形成(PAH)のメカニズム
逆説性脂肪過形成(Paradoxical Adipose Hyperplasia: PAH)により増加した脂肪組織は、病理検査において脂肪細胞の異常な増殖が確認されています。しかし、この現象がどのように引き起こされるのか、その正確なメカニズムは未だ完全には解明されていません。PAHの発症については、いくつかの仮説が提唱されており、それぞれがこの現象の一端を示していると考えられています。以下に主要な仮説を詳しく解説します。
1.冷却不足説
冷却不足説は、脂肪細胞への冷却が不十分な場合に発生する可能性を指摘しています。冷却脂肪分解治療は、脂肪細胞を冷却することでアポトーシス(自然死)を誘導し、その後、体外へ排出される仕組みを利用しています。しかし、冷却が十分でない場合には、脂肪細胞に軽度の傷害が生じ、その修復過程で逆に脂肪組織の成長が促進される可能性があると考えられています。
2.虚血誘発説
虚血誘発説では、治療に使用されるアプリケーターの真空機能が施術部位の血流を制限することがPAH発症に関与しているとされます。この血流の制限により低酸素状態が生じ、細胞レベルでのストレスが脂肪組織の過剰な増殖を引き起こす可能性があると考えられています。
3.幹細胞の活性化と交感神経の機能変化
さらに、脂肪幹細胞の活性化や交感神経の機能変化もPAH発症に寄与している可能性が指摘されています。冷却刺激によって脂肪組織内の幹細胞が過剰に活性化し、新たな脂肪細胞の形成が促進される可能性があります。また、交感神経系の変化が脂肪細胞の代謝に影響を与え、異常な増殖を引き起こす要因となる可能性も示唆されています
PAH発症の背景:ライフスタイルと遺伝の関係性
逆説性脂肪過形成(PAH)の発症リスクを高める要因には、生活習慣や個人の代謝状態、さらには遺伝的要因が関与している可能性があります。特に代謝異常を持つ人、高カロリー食を継続的に摂取している人、または長時間座りっぱなしの生活をしている人は、PAHの発症率が高いとされています。こうした生活習慣が、脂肪細胞の代謝や修復プロセスに影響を与え、異常な脂肪増殖を引き起こす可能性が指摘されています。
さらに、遺伝的要因の関与も注目されています。実際に、一卵性双生児が別々の医療機関で冷却脂肪分解治療を受けたにもかかわらず、ほぼ同時期にPAHを発症した事例が報告されています。このケースは、PAHの発症における遺伝的背景の重要性を示唆するものです。特定の遺伝子が脂肪細胞の反応や修復メカニズムに影響を与えている可能性があり、今後の研究の進展が待たれる分野といえます。
PAH発生率と使用機器による違い
逆説性脂肪過形成(PAH)の発生率は、使用する冷却脂肪分解機器によって異なることが報告されています。クールスカルプティング(クルスカ)におけるPAHの発生率は、0.021%から1.00%の範囲とされています。一方、クールテック・ディファイン(Cooltech Define)を使用した治療では、PAHの発生率が0.09%に留まるとの報告があります。
これらのデータは、クールテック・ディファインがクールスカルプティングと比較して、PAHの発生リスクが低い可能性を示唆しています。しかし、これらの数値は研究条件やサンプルサイズによって変動する可能性があるため、直接的な比較には注意が必要です。
ただ、どちらの機器にしても、PAHは非常に稀な副作用と言えます。
まとめ
リンダ・エヴァンジェリスタさんが公表した逆説性脂肪過形成(PAH)という合併症の存在は、クールスカルプティングのように広く知られ、一般的に安全とされている美容施術であっても、稀ながらリスクが伴うことを改めて世間に示しました。リンダが直面した苦難と、その勇気ある告白は、美容医療の世界において「100%安全な治療法は存在しない」という重要な事実を広く知らしめる契機となりました。
どのような美容施術であれ、その利点とリスクを慎重に比較検討することが求められます。リスクに対する理解を深め、報酬が自身にとって十分に価値あるものであると判断できた場合にのみ、治療を選択するべきです。また、施術を受ける際には信頼できる医師や医療機関を選び、事前に十分な説明を受けることが、リスクを最小限に抑える鍵となります。
本記事が、これから美容治療を検討される方々にとって、リスクと向き合いながら適切な判断を下す助けとなれば幸いです。美容医療は、正しい情報と適切な選択のもとでのみ、真の美と安心をもたらすものとなります。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。美容外科医として20年以上のキャリアがあり、アンチエイジング治療、、痩身治療を得意としている。日本美容外科学会ではウルセラの学会発表を行っている。痩身治療に関しては自らクールテックを受けてその効果をCT検査で証明した。また、実践した痩身治療を生かして、ベストボディ千葉大会ではグランプリを獲得している。【関連項目】
【脂肪冷却、クールスカルプティングに効果がない?】その理由を解明
クールテック, クルスカ, クールスカルプティング, 脂肪冷却, 脂肪冷却の効果
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