投稿日:2023/12/25
(最終更新日:2024/10/03)
加齢、老化で鼻下が伸びる、長くなる理由
ご高齢者の鼻下が長いと感じたことはありませんか?ピンとこないかたは高齢になった自分のお祖母様またはお母様の今と若い時の写真を見比べてください。個人差はありますが、多くの場合鼻下が伸びています。また、ご高齢の割には若く見える人の違いはこの鼻下の長くなっているか、なっていないかによってかなり見た目が変わってきます。この記事はどうして加齢で鼻下が長くなるのか、あるいは人中が伸びたように見えるのかを説明し、その予防方法や治療方法等について解説します。
加齢で起こる残酷な現実
紫外線をどれだけ気を付けていても、あるいは、どれだけ保湿を日々怠らずに肌のケアを行ったとしても、避けられない致命的で残酷な加齢の変化は「骨の吸収」です。骨吸収(こつきゅうしゅう)は加齢で必ず起きます。加齢で骨吸収が起こる一番の理由は性ホルモンの低下です。女性の場合はエストロゲンの低下、男性の場合はテストステロンの低下が骨吸収を促進させます。
性ホルモン低下で骨吸収が起こる理由
男性と女性における性ホルモンが骨吸収に影響するメカニズムは異なりますが、性ホルモンが男女ともに骨の健康と密接に関連しています。以下に、エストロゲンとテストステロンがどのように骨吸収に影響を与えるかについて詳細を説明します。
■女性におけるエストロゲンの影響
エストロゲンは、骨を再吸収する細胞(破骨細胞)の活動を抑制し、骨を形成する細胞(骨芽細胞)の活動を促進します。これにより、骨量が維持されます。一方、エストロゲンは骨芽細胞のアポトーシス(自然な細胞死)も抑制し、その寿命を延ばすことで骨形成もサポートします。また、エストロゲンは、骨の破壊に関連する炎症性サイトカインの産生を減少させることで、骨の再吸収を抑制します。閉経後の女性では、エストロゲンの急激な減少が骨吸収を促進し、骨密度の急速な減少を引き起こします。
■男性におけるテストステロンの影響
テストステロンは骨芽細胞の増殖と骨形成を直接刺激し、骨量と骨密度の維持に貢献します。また、男性の体内では、一部のテストステロンがエストロゲンに変換されます。このエストロゲンもまた、女性と同様に骨の健康に重要な役割を果たします。さらに、テストステロンは筋肉の成長と強化を促進し、強い筋肉が骨に適切な負荷をかけ、骨形成をサポートします。男性でも加齢に伴いテストステロンレベルが徐々に低下し、これが骨吸収を促進させることもありますが、女性と比較して性ホルモンの減少に伴う骨吸収の進行は緩やかです。
老化で鼻下が伸びる理由
ここまで読んだ読者なら、老化で鼻下が伸びる理由もお分かりでしょう。加齢で骨吸収が起こるからです。上顎骨(下記イラスト参照)の骨が吸収されることで、鼻下が伸びます。このメカニズムについてはこれから詳細に深堀して説明します。
赤い部分が上顎骨
画像はLife Science Databases(LSDB)のAnatomographyより
上顎骨の骨吸収について
イラストはChanges in the Facial Skeleton With Aging: Implications and Clinical Applications in Facial Rejuvenation; Bryan Mendelson, Chin-Ho Wong; Aesth Plast Surg (2012) 36:753–760より
上顎骨の骨吸収の結果、上記イラストの右側のような変化が起こります。骨吸収は骨全体で起こり、上顎骨全体の容量が小さくなりますが、この上顎骨の骨吸収に関して以下3点について解説します。
1.上顎骨で骨吸収が顕著な部位①
以前のブログ記事「避けられない加齢変化:大きくなる鼻」でも触れましたが、鼻を支えている基部の骨(上顎骨)で骨吸収が顕著に起こります。この結果下記イラスト①の部位の骨が消失していきます。これは医学的には梨状口(piriform aperture)の拡大といいますが、この部位が拡大すると、鼻の基部が広がり、それが鼻下の皮膚と皮下組織が後方に引っ張り、結果的に鼻下の長さを相対的に伸ばす結果となります。
2.上顎骨で骨吸収が顕著な部位②
上顎骨の骨吸収が顕著な部位としてさらに下記イラスト②の前鼻棘と呼称される鼻の中心の付け根部分です。この部位の骨吸収により鼻下は延べっとして平らになり、立体的な人中(鼻下と唇の間の盛り上がり)が平らになり、お年寄りの風貌になっていきます。
3.全体に小さくなる
前述の2部位の骨吸収のほかに、実は上顎骨全体の容量が骨吸収で小さくなります。結果的に上顎骨の体積が顕著に減少します。体積が減少すると、上顎骨が後退し、鼻と上唇の間の距離が相対的に長くなります。
歯が命
ここからは上顎骨の骨吸収を予防して、鼻下が加齢で伸びることを予防する方法について説明します。昔からあるフレーズですが、加齢を予防するには「歯が命」です。逆に歯(歯列)の喪失が上顎の骨吸収に大きな要因となる理由は、歯と上顎骨の間に存在する相互作用と刺激の減少に関連しています。これについて以下に詳しく説明します
■咬合力の伝達
正常な状態では、物をかむ時に歯にかかる力は歯根を通じて上顎骨と下顎骨に伝達されます。この力は骨の健康維持に寄与し、骨の再生を刺激します。歯が失われると、この力の伝達が減少または失われ、骨には正常な刺激が行き渡らなくなります。
■骨のリモデリングの変化
歯がなくなると、上顎骨(または下顎骨)のその部分はもはや必要とされなくなり、骨が自然に再吸収されます。他の細胞と同様に代謝の一環で骨も常に吸収と再生を繰り返しており、これを骨のリモデリングといいますが、歯の消失により骨が吸収される現象は骨の再生と吸収のバランスが崩れた結果であり、結果的に骨量の減少につながります。
■上顎骨の形状変化
長期間にわたる歯の喪失は、顎の形状に変化をもたらすことがあります。特に上顎では、歯の喪失による骨の吸収は、顎の高さと幅の減少を引き起こすことがあります。
■機能的な変化
歯がないことで咀嚼機能が低下し、顎の骨に付着している筋肉も萎縮し、筋力が低下します。骨の維持には常にそれに付着している筋肉の筋力も非常に重要ですが、筋力の低下により、顎の骨は徐々に萎縮し、さらなる骨吸収を引き起こします。
以上の理由から、歯列の喪失は上顎の骨吸収に大きな影響を及ぼし、鼻下の長さや顔の全体的な形状や外観に変化をもたらします。そのため、歯の喪失を防ぐことが大事です。「歯が若さを保つための命」なのです。
上顎骨の骨吸収の予防方法
上顎骨の骨吸収に限ったことではありませんが、骨吸収を予防し、骨の健康を維持するためには、次のようなことを日常生活に気を付けると骨吸収の予防になります。
■健康的な食事
カルシウムとビタミンDが豊富な食品を摂取しましょう。これには乳製品、緑葉野菜、魚、豆類などが含まれます。これらは骨の健康に必要な栄養素を提供し、骨の強化と再生を助けます。
■定期的な運動
特に筋力トレーニングやウェイトベアリング(体重を支える)運動が有効です。筋トレ、ウォーキング、ランニング、エアロビクス、ヨガなどが骨密度を高めるのに役立ちます。
■禁煙
喫煙は骨の健康にも悪影響を及ぼすことは明らかにされています。喫煙が骨吸収に及ぼす影響は多岐にわたり、骨の健康に対して様々な負の効果をもたらします。まず、喫煙は体内のカルシウム吸収を阻害し、カルシウムの利用率を低下させることが知られています。また、喫煙はエストロゲンなどのホルモンのレベルを低下させることもあります。これにより、特に女性では骨密度がさらに低下します。さらに研究によると、喫煙は破骨細胞(骨を分解する細胞)の活動を促進する可能性があります。これにより、骨の再吸収が加速され、骨密度が低下します。従って、禁煙は骨の健康を維持するために非常に重要です。
■アルコールの過剰摂取を控える
過度のアルコール消費は骨の健康を害する可能性があります。アルコールの過剰摂取は、破骨細胞の活性増加、カルシウム代謝の悪化、ホルモンバランスの変化、肝機能障害、栄養不良などにより骨吸収を促進し、骨密度の低下につながります。骨の健康を維持するにはアルコールの摂取を適度に抑えることが重要です。
■適切な日光浴
適量の日光を浴びることで、体はビタミンDを生成します。ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨の健康に役立ちます。
■歯科検診の定期受診
定期的に歯科医を訪れることで、歯と歯茎の健康を維持し、早期に問題を発見し対処することができます。上顎骨の予防には、必要に応じてインプラントを検討することも得策です。
鼻下の悩みについて医療機関で治療可能なこと
■インプラントの有効性
インプラントは、失われた歯を補う有効な方法であり、上顎の骨吸収を予防するためにも意味があります。インプラントは天然の歯根のように機能し、咀嚼時に顎の骨に自然な圧力を伝達します。また、正常な咀嚼機能の回復により顎周囲の筋力も保たれるようになり、顎の骨への適切な刺激が保たれます。以上により、インプラントは骨吸収の予防となり、鼻下が伸びることも予防できます。ただ、歯列をしっかり保たれた状態でも、加齢による上顎骨の骨吸収は完全に防ぐことはできないことは近年の研究論文でも明らかにされています。
■ヒアルロン酸注入による骨格形成
骨吸収は老化現象なので、予防には限界があります。しかし、「鼻下が長くみえる」ことを防ぐことは可能です。それは現実に骨吸収がはじまった部位にヒアルロン酸を注入することで吸収前の組織のボリュームを保たせるようにすることです。これを筆者はヒアルロン酸による骨格形成と名付けています。ヒアルロン酸注入で「鼻下が長くみえる」ことの予防もできますし、実際に「鼻下が長くなってしまった」場合でも鼻の梨状口の基部や前鼻棘へのヒアルロン酸注入で骨格を形成して改善させることは可能です。また、アプローチを変えて唇にヒアルロン酸注入して、唇のボリュームを持たせることで、鼻下が長く見える状態を改善することも可能です。
まとめ
「芸能人は歯が命」というフレーズは今40代以降のかたならよくCMからきいたのではないでしょうか?東幹久さんと高岡早紀さんが出演していた歯磨き粉のCMでした。歯は口周囲の老化に関しては非常に重要な役割をしています。実際、ご高齢でも歯列が保たれているかたは見た目も若く見えます。ガムをかんだり、硬いグミなどをたべたりして、咀嚼力を鍛えることは上顎の歯槽骨の強化になることにはエビデンス(医学的な証拠)もありますので、上顎骨の骨吸収や鼻下が伸びることの予防につながるかもしれません。また、この記事に記載した予防方法を是非実践してみてください。現時点ですでに「鼻下が長くなった」ことをお悩みなら美容外科でのヒアルロン酸注入も検討されるとよいと考えます。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。美容外科医として20年以上のキャリアがあり、アンチエイジング治療、リフトアップ治療を得意としている。日本美容外科学会で「スプリングスレッドを併用したフェイスリフト手術」で学会発表し、好評を得た。
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