投稿日:2025/05/10
(最終更新日:2025/05/14)

豊胸バッグ除去時にカプセルも除去すべき?

カプセル除去の必要性

豊胸手術で乳房にシリコンや生理食塩水バッグ(インプラント)を入れると、体内では異物に対する反応として被膜(カプセル)と呼ばれる薄い膜状の瘢痕組織がインプラント周囲に形成されます。この被膜自体は自然にできる正常な反応で、多くの場合は柔らかく薄いまま留まり、特に害はありません。このようなケースでは豊胸バッグを抜去すると、正常な被膜であれば自然と萎縮し、体内に少し古い瘢痕組織が残る程度とされています。

カプセル除去とは

カプセル除去とは、このインプラント周囲の被膜を手術で取り除くことです。除去の程度に応じて「部分的カプセル除去」から「トータルカプセル除去(全摘)」まで様々で、インプラントと被膜を一塊にした「エンブロック(En bloc)除去」も含まれます。エンブロック除去はインプラントと被膜を周囲の正常組織ごと一緒に取り出すイメージで、切開創が大きくなりがちな方法です。カプセル除去はインプラントを抜くだけの手術に比べて手術範囲が広く、体への負担も大きくなるため、必要性は患者さんの状態によって見極める必要があります。では、どんな場合にカプセル除去が「した方が良い」あるいは「必須」と考えられるのでしょうか? 逆に除去しなくても問題ないケースはあるのでしょうか? このブログ記事では最新の海外文献をもとに豊胸バッグ除去時のカプセル除去の必要性につついて解説します。

カプセル除去が推奨されるケースとは

過去10年の文献レビューによると、被膜に病的な所見がある場合にはカプセル除去が推奨されます。具体的には以下のような状況です。

カプセルが著しく硬く厚くなっている場合(被膜拘縮)

被膜拘縮により乳房の変形や痛みが生じている場合、カプセルを取ることで症状改善や拘縮再発防止を図ります。実際、カプスレクタミー(被膜切除)は昔から拘縮治療の標準的対策とされてきました。

シリコンインプラントが破損・漏出している場合

シリコンバッグが破れ、中身のシリコンが被膜内に滲み出している場合はカプセル除去が必要です。残されたシリコンゲルやシリコン微粒子が周囲組織に炎症を起こす恐れがあるため、インプラントとともに被膜ごと取り除き綺麗に洗浄することが推奨されます。これはシリコンによる合併症(肉芽腫や石灰化など)を防ぐ安全策です。

被膜に慢性炎症や石灰化、異常な液体貯留がある場合

インプラント周囲に慢性的な炎症が起きていたり、被膜が石灰沈着で硬くなっていたり、病的な液体(滲出液)が溜まっているようなケースも被膜ごと摘出してしまう方が安全です。これらは異常な被膜反応のサインで、被膜を残すと将来的にしこりや感染の温床となる可能性があるためです。特にインプラント周囲の感染が起きている場合は、被膜内に細菌のバイオフィルムが形成されている恐れもあり、インプラントと被膜を一緒に除去するのが基本対応となります。

被膜内に腫瘍が疑われる場合

非常に稀ですが、被膜から悪性リンパ腫(後述のBIA-ALCL)が発生していることが明らかな場合や強く疑われる場合は、インプラントと被膜を完全に一塊で摘出(エンブロック切除)することが推奨されています。これは腫瘍の取り残しを防ぎ、病変を完全に除去するための対応です。

上述のような「被膜に明らかな異常があるケース」では、カプセル除去(可能であればエンブロック)が推奨されます。異常な被膜を残しておくメリットはなく、むしろシリコン残留や炎症・腫瘍リスクといった悪影響を断つために、被膜も一緒に取った方が安全だからです。特に被膜拘縮やインプラント破損の症例では、多くの形成外科医がカプセル除去を標準的に行います。また、近年問題となっている乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)と診断された患者では、患側のインプラントと被膜の完全摘出が必須の治療とされています。

厚いカプセルとバッグ除去

↑写真左:厚いカプセル(慢性炎症)とバッグを除去した例。右側は通常の厚さの被膜

参照元:

Evaluating the Necessity of Capsulectomy in Cases of Textured Breast Implant Replacement

Complications of Capsulectomies: An Analysis of the American College of Surgeons National Surgical Quality Improvement Program Database

カプセル除去が必ずしも必要でないケース

一方で、被膜に特段の異常がない場合(=症状がなく被膜も薄く柔らかい場合)は、無理にカプセルを除去しなくても良いとされています。近年のレビュー論文でも「カプスレクタミーは無症状の患者には必須ではない」と結論付けられています。以下のような状況では被膜を残してインプラントだけ抜去する選択肢も検討されます。

被膜が薄く柔らかく、炎症や石灰化がない

典型的には生理食塩水インプラントを長年入れていたケースなどで見られるように、非常に薄く透明な被膜しか形成されていないことがあります。こうした正常範囲の被膜は剥がそうとすると容易に裂けてバラバラになってしまうほど薄く、完全に摘出しても数グラム程度の組織しか得られません。炎症性の細胞反応もほとんどない正常組織なので、摘出せず体内に残しても病的影響は極めて少ないと考えられます。実際、インプラントだけ抜去して筋膜や乳腺組織を元に戻せば、残った被膜は自然に萎縮してしまい、後にほとんど痕跡が残らないとも報告されています。

患者が無症状で被膜に問題がない

美容目的で豊胸バッグを抜去する場合や、別の理由でインプラントを取り出すが被膜自体に異常がないケースでは、被膜をあえて取り除かずに残しておく方が安全なこともあります。被膜を取る手術はどうしても正常組織を剥がす追加操作となるため、出血や痛み、合併症リスクが増えます。そのため「異常のない被膜は温存し、必要な場合のみ除去する」という方針が推奨されているのです。

要するに、「異常なし」の被膜は無理に取らないのが基本です。実際、被膜に病理的異常がなければ、カプセル除去を追加してもしなくても患者さんの健康状態や症状に差が出なかったという研究結果もあります。逆に、カプセル除去を行うことで手術時間や侵襲が増し、出血や周囲組織への損傷リスクが高まるため、メリットが明確でない限り避けるほうが賢明なのです。特に肋骨や胸筋に癒着した被膜を剥がす際には胸壁の筋肉や肺を傷つけてしまう(気胸のリスク)報告もあり、技術的にも注意が必要な難手術になります。こうした理由から「正常な被膜は残す」判断が多くの専門医に支持されています。

薄い被膜とバッグ

↑薄いカプセルの例(このような場合はカプセルを除去する必要はない)

バッグの種類(シリコン or 生理食塩水)による違い

インプラントの内容物の違い(シリコンか生理食塩水か)も、被膜除去の必要性を検討する上で考慮されます。一般的な傾向として、シリコンインプラントの方が生理食塩水よりも被膜がやや厚く形成されることが多く、万一シリコンバッグが破損している際には周囲組織への影響が大きいためカプセル除去がより重要になります。シリコンは体内に漏れると肉芽腫や炎症を起こしやすいため、シリコン充填物が破れている場合は被膜内外に漏れたシリコンゲルを徹底的に取り除く処置(エンブロック除去や被膜掻爬など)が強く推奨されます。

一方、生理食塩水インプラントは中身が生理的な食塩水であり、破損しても内容液が速やかに体内に吸収され無害化されます。そのため被膜内に残留する異物もなく、被膜自体も薄く柔らかい傾向にあるため、インプラント摘出後は被膜を残しても自然に縮み問題を起こさないケースが多いです。実際、専門家からは「正常で薄い被膜(特に生理食塩水インプラント由来のもの)は無理に取る必要はない」という指摘がされています。もちろん、生理食塩水インプラントであっても被膜拘縮など異常が生じていれば除去は検討すべきですが、バッグの中身が生理食塩水であるほど被膜除去の必要性は低い傾向にあります。

→合わせて読みたい「豊胸バッグ除去は保険適用される?大学病院での対応や費用を徹底解説」

インプラント表面の種類(テクスチャータイプ)による違いとBIA-ALCL

インプラントの表面形状には、滑らかなスムース型とザラザラしたテクスチャード型があります。テクスチャード型は被膜拘縮を起こしにくい利点から使われてきましたが、BIA-ALCL(乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)との関連が指摘され現在では安全性の観点で問題視されています。

BIA-ALCLとは主にテクスチャード型インプラントの被膜内で発生する非常に稀なリンパ腫です。テクスチャード表面を持つインプラントでは被膜が通常より分厚く形成される傾向も報告されており(免疫反応の違いによるものと考えられます)、その点でもスムース型と異なります。しかし重要なのは、現時点の知見では「症状のないテクスチャード型インプラント使用患者に対して、将来のBIA-ALCLリスクを心配して予防的に被膜除去までする根拠はない」という点です。2020年のレビューでも、無症状のテクスチャードインプラント患者に対し予防目的でカプセル除去を行うべき十分な情報はないと結論づけられています。実際、FDA(日本の厚生労働省に該当する米国の行政機関)も2019年に問題となったアラガン社のテクスチャードインプラント回収の際、「症状のない患者が予防的にインプラント摘出(=被膜ごと除去)する必要はない」との方針を示しました。これは手術リスクが僅かなリンパ腫発生リスクを上回る可能性があるためです。したがって、テクスチャード型だからといって症状や異常がなければ、慌てて被膜を取る必要はないと専門家は述べています。

しかし逆に、一度BIA-ALCLと診断された場合や強く疑われるケースでは、被膜全摘は必須です。BIA-ALCLは被膜内のリンパ腫細胞の塊として生じるため、治療はインプラントと被膜をエンブロックで完全除去することが推奨されています。この手術により病変部位を一括して取り去れば、早期のBIA-ALCLであれば多くが手術のみで完治し追加治療を要さないと報告されています(進行例では化学療法など追加)。まとめると、テクスチャード型インプラント使用者でも無症状であれば被膜除去は不要だが、BIA-ALCL発症時には被膜除去が極めて重要ということです。

en bloc全摘乳房バッグ

↑カプセルとともにバッグ除去した例(エンブロック除去)

全身症状(Breast Implant Illness)と被膜除去の関係

近年、豊胸インプラントによるとされる全身の不定愁訴(倦怠感や関節痛、頭痛、自己免疫的症状など)の訴えが注目され、乳房インプラント病(豊胸バッグ症候群Breast Implant Illness)と俗称されています。

乳房インプラント病の詳細はこちら

明確な医学的原因が証明されていないものの、多くの患者がインプラント抜去による症状改善を期待しています。この乳房インプラント病(Breast Implant Illness)に対し「インプラントだけでなく被膜も全て取った方が症状が改善するのではないか」という議論があります。結論から言えば、現時点で乳房インプラント病(Breast Implant Illness)改善のために常に被膜全摘が必要というエビデンスはありません。2021年に発表された150人規模の前向き研究では、インプラント抜去後の症状改善度に被膜除去の方式(部分的 vs 全部 vs エンブロック)の違いは認められず、どの方法でも自己申告症状が有意に改善したと報告されました。つまり「インプラントを抜去すれば多くの患者で症状は良くなり、その効果は被膜をどこまで取ったかに左右されなかった」ということです。この結果は、「乳房インプラント病(Breast Implant Illness)の不調の原因は主にインプラント自体であり、被膜の残存は症状改善に大きな影響を及ぼさない可能性」を示唆しています。実際、被膜まで取っても症状が残るケースや、逆に被膜を残しても症状が改善するケースの両方が見られ、被膜摘出が乳房インプラント病(Breast Implant Illness)治癒の決定打となる保証はないと指摘する専門家もいます。

一方で、被膜ごとインプラントを取るトータルカプスレクタミーを行った症例の大多数で症状が改善したとの報告もあり、研究によって見解が分かれる部分もあります。ただしこの報告では多くの患者が被膜拘縮や痛みを抱えていたケースを対象としており、純粋に全身症状だけの患者とは状況が異なる可能性があります。総合すると、乳房インプラント病(Breast Implant Illness)症状の改善目的で一律に被膜全摘すべきという確固たる証拠はまだなく、まずはインプラント抜去自体が重要と考えられます。被膜摘出を追加で行うかは個々の症例での被膜の状態(炎症や厚みの有無)や患者の希望を踏まえ、慎重に判断されます。現時点では「被膜を残すか除去するかで乳房インプラント病(Breast Implant Illness)が必ず治る・治らないが決まるわけではない」というのが文献上の見解です。

カプセル除去のリスクと将来への影響

最後に、カプセル除去手術そのもののリスクや今後の乳房再建への影響にも触れておきます。カプセル除去は前述の通り手術侵襲が大きく、合併症リスクも高まります。具体的には出血による血腫や、胸筋・肋骨から被膜を剥離する際の胸壁損傷(ごく稀に肺を傷つけて気胸になる例)が報告されています。術後の痛みや回復期間も、被膜を取らない場合に比べて長くなる傾向があります。そのため、「メリットが不明瞭な場合は、被膜除去は避け、被膜除去は必要最低限に留める」ことが患者さんの安全に繋がります。

また、将来もし再度豊胸術を受ける(インプラントを入れ直す)場合や、他の方法で乳房再建を行う場合にも被膜の扱いは影響します。例えばインプラント入れ替え手術では、被膜が正常であれば一部を残して活用する(被膜腔をそのまま新しいインプラントのポケットにする)こともあります。一方、被膜拘縮が原因で取り替える場合は被膜を切開・削除しないと新しいインプラントでもまた拘縮が起きる可能性が高いため、カプスレクタミーが選択されます。自家組織(脂肪移植や皮弁)で再建する場合も、硬い被膜が残っていると移植組織の血流や柔軟性に悪影響が出る恐れがあるため、異常があれば取り除くことが多いでしょう。逆に薄い被膜であれば、そのまま周囲組織に吸収・同化していくため、大きな障害とはならないと考えられます。要は、将来の再建計画によっても被膜を残すか取るかはケースバイケースで決められます。いずれにせよ、患者さんの安全と長期的な利益を最優先して判断される点に変わりはありません。

まとめ

 豊胸バッグ抜去時に被膜も同時に除去すべきかどうかは、患者さんの状況次第というのが海外文献の一致した見解です。被膜に異常(硬い拘縮、シリコン漏れ、炎症、腫瘍疑いなど)がある場合は除去が推奨されます。一方、異常のない被膜は無理に取る必要はなく、インプラント(豊胸バッグ)を抜去するだけで十分なケースが多いです。被膜除去は手術侵襲を増やし合併症リスクも伴うため、医学的メリットが明確な場合に絞って行われます。シリコンバッグの破損時や被膜拘縮・感染時、BIA-ALCL発症時などは除去が必要ですが、それ以外では被膜を残しても安全であり、特に生理食塩水バッグ由来の薄い被膜などは体内に残して問題ないと考えられます。BIA-ALCL予防目的の無症状被膜除去は推奨されておらず、乳房インプラント病(豊胸症候群)に関しても被膜を全て取ることが必須との根拠はまだ不十分です。総じて、「必要な場合のみ被膜除去を行い、そうでなければ温存する」という方針が、過去10年の海外論文から読み取れる結論です。患者さん個々の状況に合わせ、経験豊富な美容外科医と十分相談して最適なアプローチを選択すると良いでしょう。

 

筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。美容外科医として20年以上のキャリアがある。

【関連項目】

豊胸バッグ除去の相談はこちら

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豊胸バッグ除去は保険適用される?大学病院での対応や費用を徹底解説

豊胸シリコンバッグ後の拘縮

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