投稿日:2024/11/06
(最終更新日:2024/11/06)
ビールでアンチエイジング?ホップで更年期障害症状が緩和する事実
ビールの主成分の一つであるホップが、女性ホルモンに似た作用を持つと言われていることをご存知でしょうか?女性は年齢を重ねるにつれて、エストロゲンと呼ばれる重要な女性ホルモンの分泌量が大きく減少します。特に閉経後は、エストロゲンの分泌がほぼ停止し、それに伴い女性の体には多くの変化が生じます。ホットフラッシュや気分の変動など、更年期特有の症状がこれに関連しています。では、ビールを飲むことでエストロゲンの低下を防ぐことができるのでしょうか?ホップに含まれるフィトエストロゲンの効果を科学的に解説しながら、ビールがアンチエイジングにどのように役立つ可能性があるのかをこのブログ記事で詳しく掘り下げていきます。
エストロゲンは若さの鍵
エストロゲンは、女性の健康と若々しさを支える極めて重要なホルモンです。このホルモンは主に卵巣から分泌され、月経周期の調節や妊娠準備だけでなく、肌の弾力や潤いの維持、髪のハリとコシの強化、骨密度の保護、さらには血管の柔軟性を保つ役割など、女性の美と健康を多角的にサポートしています。加齢とともにエストロゲンのレベルが変化することで、体にさまざまな影響が現れます。
■エストロゲンの主な働き
肌の健康: エストロゲンはコラーゲンとエラスチンの生成を促進し、肌の弾力性を高め、保湿力を維持します。これにより、肌は滑らかでハリのある状態を保つことができます。
髪の健康: 毛根に直接作用し、髪の成長を支えます。これにより、髪にボリュームと艶が生まれ、しなやかで丈夫な髪が維持されます。
骨密度の維持: 骨の健康を支えるエストロゲンは、骨の形成と強化に関与し、骨粗しょう症を予防する重要な役割を果たします。
血管の健康: 血管を柔らかく保ち、動脈硬化の進行を抑制することで、心血管系の健康をサポートします。
■エストロゲンレベルの変化と影響
エストロゲンの分泌量は20代から30代にピークを迎え、その後は加齢とともに徐々に減少します。特に40代以降は卵巣の機能が低下し、エストロゲンの減少が顕著になります。閉経後には分泌がごくわずかになり、その影響で次のような体の変化が生じます。
肌の乾燥やシワの増加: エストロゲン不足により、肌の水分保持能力が低下し、乾燥やシワが目立ちやすくなります。
髪のハリやコシの低下: 髪の成長速度が遅くなり、髪が薄くなったり、抜け毛が増加したりすることがあります。
骨密度の低下: 骨がもろくなり、骨折のリスクが高まります。特に、骨粗しょう症は閉経後の女性に多く見られます。
血管の硬化: 動脈硬化が進行しやすくなり、心血管疾患のリスクが増加します。
このように、加齢によるエストロゲンの減少は避けられませんが、その影響を最小限に抑えることは、若々しさと健康を保つ鍵となります。
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ビールのエストロゲン様効果の発見
1951年、オーストラリアの化学者たちは、ビールの主成分であるホップにエストロゲン様作用を持つ物質が含まれていることを突き止めました。この発見は、ホップが植物性エストロゲン、いわゆるフィトエストロゲンを含んでいることを示し、科学界に大きな衝撃を与えました。その後、ドイツの研究者が追跡調査を行い、ホップには非常に強いエストロゲン活性があることを実験的に証明しました。しかし、当時の科学者たちは、ビールに含まれる植物性エストロゲンの濃度がごくわずかであるため、飲用によって人体に与える影響は限定的だと考えていました。
時は流れて1999年、ホップの化学成分に関するさらなる研究が行われ、ホップが持つ植物性エストロゲンの中でも特に強力な「8-プレニルナリンゲニン(8-PN)」が発見されました。この8-PNは、既知の中でも最も強いフィトエストロゲンの一つとされ、エストロゲン受容体に対する結合力が非常に高いことが判明しています。この発見は、ホップのさらなる研究を促進し、ビールがアンチエイジングや更年期症状の緩和に役立つ可能性を示唆する重要な一歩となりました。
ホップ抽出物が更年期症状を緩和する科学的証拠
2006年に発表された注目の研究「A first prospective, randomized, double-blind, placebo-controlled study on the use of a standardized hop extract to alleviate menopausal discomforts」は、ホップ抽出物が更年期障害の症状緩和に与える影響を厳密に評価したものです。この研究は、ホップ(Humulus lupulus L.)に含まれる8-プレニルナリンゲニン(8-PN)という強力なフィトエストロゲンが、更年期女性に有益な効果をもたらす可能性を示しています。
67名の更年期女性を対象に、観察期間は12週間にわたりました。参加者は無作為に、100μgの8-PNを含むホップ抽出物を摂取する群、250μgの8-PNを含む群、そしてプラセボ群の3つに分けられました。結果として、100μg群は6週間後にプラセボ群と比較して、更年期症状の有意な改善が見られました。一方で、250μg群は期待されたほどの効果を示さず、用量反応関係は見られませんでした。しかし、どちらのホップ抽出物群も、特にホットフラッシュのスコアで顕著な改善を示し、ホップの効果が確認されました。
結論として、この研究は日常的なホップ抽出物の摂取が、更年期障害の血管運動症状やその他の不快な症状を緩和する有望な治療法となり得ることを示唆しています。特に、ホップ由来の8-プレニルナリンゲニン(8-PN)は、ホットフラッシュのような更年期特有の症状を軽減するための効果的な代替療法としての可能性を秘めています。この発見は、自然由来の成分を用いた新たな治療の扉を開くものです。
ビールの力で更年期の不快症状を緩和する科学的エビデンス
2021年に発表された論文「Moderate Consumption of Beer (with and without Ethanol) and Menopausal Symptoms: Results from a Parallel Clinical Trial in Postmenopausal Women」は、ビールの摂取が更年期症状に与える影響を詳細に調査したものです。この研究は、アルコール含有ビールとノンアルコールビールの両方が更年期特有の症状にどのような変化をもたらすかを検証しました。更年期障害に苦しむ女性たちを対象に、1日330mLのアルコール含有ビールを摂取する群と、1日660mLのノンアルコールビールを摂取する群に分け、それぞれの効果を比較しました。
結果として、どちらの群も更年期関連の症状が統計的に有意に改善されました。特筆すべきは、アルコール含有ビール群の方が心理的な不快感、例えば気分の落ち込みやストレスの緩和において、より大きな効果を示したことです。これにより、ビールが心身のバランスを整える可能性があることが示唆されています。
この研究は、適度なビールの摂取が更年期症状の緩和に寄与することを示唆し、ビールに含まれるフィトエストロゲンが重要な役割を果たしている可能性を指摘しています。具体的には、フィトエストロゲンが体内のエストロゲン受容体と相互作用し、ホットフラッシュなどの血管運動症状を効果的に軽減する働きがあると考えられます。
8-プレニルナリンゲニン(8-PN)とは
8-プレニルナリンゲニン(8-PN)は、ホップに含まれるポリフェノールの一種であり、特にプレニル化フラボノイドに分類されます。この成分は、植物由来のエストロゲン様作用を持つ化合物、いわゆる「フィトエストロゲン」の中でも非常に強力なものとして知られています。化学構造的には、フラバノン骨格にプレニル基が結合しており、この構造がエストロゲン受容体と強く結合する能力を与えています。
■生成と代謝
8-PNは、ホップに自然に存在するキサントフモールやイソキサントフモールから腸内細菌の作用で生体内に生成されます。この変換プロセスは個人差があり、腸内フローラの構成によって生成量が変わることがあります。つまり、人によって8-PNの効果の感じ方に違いがある可能性があります。
■エストロゲン様作用
8-PNはエストロゲン受容体αとβに高い親和性を持ち、強力なエストロゲン様作用を発揮します。この作用は、他の植物由来のフィトエストロゲンと比較しても非常に強力であると報告されています。
■更年期症状の緩和
8-PNは、ホットフラッシュ(のぼせやほてり)や気分の不安定さといった更年期障害の症状を緩和する効果が期待されています。ホップ抽出物を使用した臨床試験でも、血管運動症状の軽減に有効であることが示されています。これにより、8-PNは更年期女性の生活の質を向上させる可能性があると考えられています。
■代謝への影響
8-PNは、エストロゲン様作用を介して骨の健康に寄与する可能性があります。具体的には、骨吸収を抑制し、骨密度の維持や骨折リスクの低減に役立つとされています。骨粗鬆症の予防においても、その有効性が期待されています。
■抗がん作用
研究によれば、8-PNは乳がんや前立腺がん細胞の増殖を抑制する可能性があるとされています。ただし、エストロゲン依存性のがんへの影響は複雑で、さらなる研究が必要です。現在、抗がん剤としての利用可能性も検討されていますが、臨床的なエビデンスはまだ発展途上です。
このように、8-PNは自然界に存在する最も強力なフィトエストロゲンの一つであり、更年期障害の緩和などに有用な可能性を秘めています。
まとめ
エストロゲンは、女性の若々しさと全身の健康を支える極めて重要なホルモンです。このホルモンのレベルを適切に維持することは、加齢に伴う様々な身体的・精神的な変化を和らげ、より充実した質の高い生活を送る鍵となります。今回の記事でご紹介したように、ビールに含まれるホップは自然由来の方法で更年期症状を軽減するための有望な選択肢として注目されています。ホップの8-プレニルナリンゲニンは強力なフィトエストロゲン(植物性エストロゲン)として機能し、ホットフラッシュや気分の不調など、更年期特有の不快な症状を和らげる可能性があることが明らかになってきています。
この自然成分の作用メカニズムや健康への恩恵については、現在も世界中の研究者たちによって活発に研究が進められています。これからも新たな発見が期待される中、健康で生き生きとした日々を過ごすために、ホップの驚くべき力を取り入れてみてはいかがでしょうか。この記事が皆様の健康と生活の質向上に少しでもお役に立てば幸いです。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。美容外科医として20年以上のキャリアがあり、アンチエイジング治療、リフトアップ治療を得意としている。日本美容外科学会で「スプリングスレッドを併用したフェイスリフト手術」で学会発表し、好評を得た。また、形成外科学会での勉強会においても講演をおこなっている。ウルセラについても日本国内に導入直後から取り入れており、日本美容外科学会でもウルセラの学会発表を行っている。【関連項目】
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