投稿日:2025/02/01
(最終更新日:2025/02/11)

直美(ちょくび)の問題点:日本の医療に与える影響とは?

美容外科医専門医元神賢太医師

「直美(ちょくび)」とは、医師が国家試験に合格した後、2年間の初期研修(臨床研修)を修了したものの、一般的な保険診療科での実務経験を積まずに、直接美容外科に就職することを指します。

本来、医師は内科・外科・救急医療など幅広い診療科で経験を積み、病気の診断・治療、合併症管理、全身の健康管理など、総合的な医療知識を身につけることが求められます。しかし、「直美」ルートを選択した医師は、これらの基礎的な臨床経験を経ずに美容外科へ進むため、患者の安全や適切な医療提供の観点から懸念が生じています。

特に、美容外科は自由診療が中心であり、収益性が高い一方で、施術のリスク管理や合併症対応が不十分なケースも少なくありません。経験の浅い医師が手術を担当することで、医療事故やトラブルが発生するリスクも高まります。また、こうした「直美医師」の増加は、医療全体の質の低下や、患者が安心して美容医療を受けられない環境を生み出す要因となり得ます。

本記事では、「直美」が日本の医療業界にもたらす具体的な問題点やリスクについて詳しく解説し、患者が適切な美容医療を受けるために何を意識すべきかを考えていきます。

直美の問題点:医師の偏在化がもたらす深刻な影響

「直美(ちょくび)」の増加が日本の医療に及ぼす最大の問題のひとつが、医師の偏在化です。現在、医師国家試験の合格者は年間約9,500人にのぼりますが、そのうち200300人が直美ルートを選択しているといわれています。これは、医学部の1学年の定員(約100人)から計算すると、実質的に23校分の医師が、毎年美容外科・美容皮膚科業界に流れている計算になります。

本来、国は過剰労働問題の解消と高齢化社会への対応を目的として、過去20年間で既存の医学部の定員を増やし、新たに23校の医学部も設立してきました。しかし、その政策の成果として増加したはずの医師の多くが、保険診療を行う一般的な医療機関ではなく、美容外科という自由診療分野に流れてしまっているのが現状です。

この流れが加速すると、地域医療の崩壊をさらに深刻化させる可能性があります。特に地方では医師不足が深刻化しており、医療機関が維持できず、地域住民が適切な医療を受けられないケースも増えています。

美容外科自体が悪いわけではありません。しかし、直美問題により本来国民の健康を支えるべき医師が、自由診療の分野に集中することで、社会全体の医療バランスが大きく崩れているのは事実です。

直美の問題点:利益追求型医療の危険性

直美(ちょくび)医師を積極的に採用しているのは、湘南美容クリニックをはじめとする大手美容外科グループです。湘南美容クリニックの採用ページには、「医師免許、2年間の初期研修終了予定者、転科可(ゼロから教えます)」と明記されており、直美の医師も積極的に採用し、指導していく姿勢が明確に示されています。

 

↑湘南美容クリニックの医師募集ページより転載

 

一方で、湘南美容クリニックは米国の株式市場(NASDAQ)に上場しており、これは医療機関でありながら、一般企業と同様に利益を最大化することが最優先の経営方針になっていることを意味します。つまり、純粋な医療機関としての役割よりも、利益の追求が経営の最重要目標とされているのです。

この影響は、実際の診療方針にも大きく反映されています。最近、ヤフーニュースにも掲載された、直美であることを公言しているMK CLINIC日本橋院の石田雄太郎医師は、記事内で次のように発言しています。

「「切開法」よりも、まぶたを糸で留める「埋没法」を勧める医師のほうが、効率的に利益をあげてくれるのだ。」

この言葉からも分かる通り、患者のまぶたの状態や希望に関係なく、利益を最大化するために「埋没法」が推奨されていることが伺えます。本来であれば、患者にとって最適な治療法を選ぶのが医師の役割です。しかし、直美医師が多く在籍する美容外科では、治療の選択基準が「医学的適正」ではなく「利益率の高さ」によって決定されているケースがあるのです。

さらに、直美医師はこのような利益追求型の考え方を「医療の常識」として指導される傾向があります。一般的な医師は、保険診療の中で適切な診療方針を学び、患者の健康を最優先する倫理観を育むものですが、直美医師の場合、最初から営利目的の医療システムに組み込まれ、「売上を上げること」が医師としての評価基準になるという特殊な環境でキャリアをスタートさせることになります。

この結果、患者にとって本当に必要な治療ではなく、クリニック側の売上を伸ばすための治療が優先される傾向が強まるのです。

直美医師の増加は、こうした利益最優先の医療文化を助長する要因の一つとなっており、長期的には患者の信頼を損なうリスクが高まると考えられます。

参照元:キラキラ系「直美」医師が急増中  技術力より「ホスト的スキル」がモノを言うワケ

直美の問題点:モラルの低下が招く医療の信頼喪失

近年、美容外科業界において、直美(ちょくび)医師を多く雇用する大手クリニックの医師が不同意性交やわいせつ罪で逮捕される事件が頻発しています。これは単なる偶発的な事件ではなく、美容外科医の倫理観や医療モラルの低下が根本的な原因の一つと考えられます。

最近の例では、東京美容外科(総院長:麻生泰医師)の黒田あいみ医師が医学解剖実習のご献体を前に不謹慎なSNS投稿を行い、大きな批判を浴びました。本来、医師は生命に対して最大限の敬意を払うべき存在ですが、こうした軽率な行動は、医療倫理の欠如を象徴するものと言えます。

医師の倫理観の重要性は、単なる道徳論ではなく、法律上の規定としても求められています。医師法 第7条には、

「医師は、医師としての品位を損するような行為をしてはならない。」

と明記されており、これは医師が一般人以上に高いモラルと責任感を持つべき職業であることを示しています。しかし、直美の医師が多く働く美容外科業界では、この基本的なモラルが軽視される傾向にあります。

一般的な医師は、医学部の教育だけではなく、実際の臨床現場での経験を通じて、医療倫理やモラルを自然に身につけていきます。特に、

・厳格な上下関係のもとでの研修

・人の生死に関わる場面での判断

・救急医療や終末期医療での経験

などを経ることで、患者の命を預かる責任感が養われ、医師としての倫理観が確立されていきます。

しかし、直美の医師は、このような厳しい臨床現場を経験することなく、美容外科に直接就職するため、医師としてのモラルが適切に育まれないという問題があります。医療の本質よりも「売上」や「効率」が優先される環境で育つため、医師としての品格や倫理観が欠如しやすくなるのです。

直美の問題点:手術の技術不足が招くリスク

美容外科手術は一般的に安全性が高いと考えられがちですが、予期せぬ出血や合併症が発生する可能性はゼロではありません。特に、外科手術においては、突然の大量出血などの緊急事態に適切に対応できるかどうかが、患者の安全を大きく左右します。

経験豊富な外科医であれば、電気メスによる焼灼、血管結紮(縛る)、圧迫止血、止血剤の使用など、状況に応じたさまざまな止血方法を選択し、冷静に対処することが可能です。こうした技術は、救急医療や保険診療の外科手術の現場で経験を積むことで、初めて確実に身につくものです。しかし、直美(ちょくび)の医師は、こうした基本的な外科手技を習得する機会が極めて少ないのが現状です。

本来、一般的な外科医は、初期研修の段階でさまざまな手術に立ち会い、外科的なトラブルシューティングを実地で学びます。緊急時の対応や、術後の合併症管理、適切な術式の選択など、すべてはこうした経験を通じて磨かれるものです。しかし、直美の医師はこうした研修をほとんど受けないまま、美容外科の現場に立つことになります。その結果、手術中の突発的な事態に適切に対処できず、最悪のケースでは重大な医療事故につながることもあるのです。

さらに、直美の医師は、「最悪の事態」を想定する習慣が身についていない傾向があります。医療においては、万が一のリスクを常に考慮し、最悪の事態が起こった際に迅速に対応できるかどうかが非常に重要です。しかし、基礎的な外科経験が不足している直美の医師は、手術後のトラブル発生を予測する能力も不十分なため、術後の適切な判断ができず、対応が遅れることもあります。

こうした手術技術の未熟さが原因で、美容外科においても死亡事故が発生していることは、決して無視できない事実です。自由診療の美容医療では、「保険診療に比べて軽い手術が多い」と誤解されがちですが、実際には局所麻酔や全身麻酔を伴う高度な手術も多く、適切な管理が求められます。もし、手術中に出血やショック症状が発生しても、直美の医師は適切に対処できるスキルを持たないまま対応を迫られることになります。これが、実際に美容外科手術における死亡事故の背景のひとつとなっているのです。

TCB医師募集ページ

↑TCB(東京中央美容外科)の医師募集ページ

直美の問題点:合併症への対応力の欠如が招くリスク

医療において、すべての治療や手術にはリスクが伴います。薬剤の投与ひとつをとっても、患者の体質や持病によっては、予期せぬ副作用やアレルギー反応が起こる可能性があります。特に、アナフィラキシーショック(重度のアレルギー反応)は、発症から数分以内に適切な対応をしなければ、呼吸停止や心停止に至ることもある危険な状態です。また、美容外科では局所麻酔や静脈麻酔を使用することが多く、まれに麻酔による呼吸抑制や血圧低下などの急変が発生することもあります。

このような緊急性の高い状況に直面したとき、直美(ちょくび)の医師が適切に対応できるかどうかは大きな疑問です。

通常、医師は内科・外科・救急医療の現場を経験しながら、全身管理の知識と技術を身につけていきます。救急外来では、心肺蘇生やショック状態の患者への対応を実地で学び、外科の現場では術後の感染管理や血栓症のリスクを考慮しながら治療を進める能力が養われます。

しかし、直美の医師はこうした基本的な臨床研修を十分に受けることなく、美容外科に進むため、医学の基礎的な実践力が不足しているのが現実です。その結果、緊急時の対応力が著しく低く、患者の容体が急変した際に、適切な処置ができないケースが多く発生しています。

たとえば、美容医療で頻繁に行われるヒアルロン酸やボツリヌストキシン(ボトックス)の注射でも、誤った部位に注入すると血管閉塞や神経麻痺などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。経験豊富な医師であれば、こうしたリスクを回避するための解剖学的知識や対処法を熟知していますが、直美の医師はそうした技術や判断力に乏しいため、合併症を引き起こしやすく、対応も遅れる傾向にあるのです。

実際に、美容外科では適切な対応ができずに、重大な医療事故が発生している例も報告されています。たとえば、

・麻酔による呼吸抑制が発生した際に、気道確保ができず、患者が低酸素状態に陥ったケース

・顔・顎の脂肪吸引手術後に血種が発生し、気道閉塞を引き起こしたが、救急病院への緊急受診などの適切な指示を怠ったケース

・ヒアルロン酸注射による血管閉塞が起こったが、ヒアルロニダーゼ(溶解剤)の使用が遅れ、皮膚壊死が発生したケース

これらの事例は、美容外科手術や施術が単なる「美容のための行為」ではなく、適切な医学的判断と緊急対応能力が求められる医療行為であることを示しています。しかし、直美の医師は、こうした状況を想定したトレーニングを十分に受けていないため、適切な対応ができずに患者の命を危険にさらしてしまうのです。

まとめ

本来、美容外科医であっても、医師としての基本的な資質や責任感が損なわれるべきではありません。医療とは単なる技術の習得ではなく、患者の安全を守るという倫理観と、緊急時に適切な判断を下せる経験が不可欠です。しかし、直美(ちょくび)の医師の増加によって、美容外科の現場ではこうした医療の根幹が揺らぎつつあります。

美容外科は見た目の美しさを追求する医療ですが、それが外科手術である以上、適切な技術と緊急対応能力が求められるのは当然のことです。にもかかわらず、直美の医師は本来必要な臨床経験を経ずに手術を行うため、医療の基本を知らないままメスを握るリスクが高まっています。結果として、予期せぬ合併症や手術中のトラブルに適切に対応できず、患者の安全が脅かされるケースが増えているのが現実です。

患者が美容医療を受ける際には、施術を担当する医師がどのような経歴を持ち、どのような研修を受けてきたのか、どのような医療倫理観を持っているのかを慎重に確認することが極めて重要です。クリニックのホームページや医師の経歴を事前に調べ、適切な訓練を受けた医師かどうかを見極めることが、安心・安全な施術を受けるための最も有効な手段です。

美容外科の成功は、単に見た目を変えることだけでなく、安全な医療が提供されることによって初めて成り立ちます。経験豊富な医師を選ぶことが、美容医療を受けるすべての患者にとって、最も確実なリスク回避策であることを忘れてはなりません。

 

筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。美容外科医として20年以上のキャリアがある。

【関連項目】

美容外科治療を受ける場合の問題と注意点

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