投稿日:2024/09/08
(最終更新日:2024/09/08)
トランサミン(トラネキサム酸)が肝斑に効く理由
肝斑は、特に30代以降の女性に多く見られる顔のシミの一因であり、多くの女性の悩みの種となることから、一種の「国民病」とも言えます。この肝斑に対して、現在市販されている「トランシーノ」などの薬は、手軽に薬局で購入できる治療法として人気を集めています。トランシーノの主成分であるトラネキサム酸は、その抗炎症作用とメラニン生成抑制効果により、肝斑に対して非常に効果的であることが臨床的に証明されています。このブログ記事では、トラネキサム酸(トランサミン)がどのように肝斑に働きかけるのか、その作用メカニズムや、最新研究ついて詳しく解説します。
トラネキサム酸とは
トラネキサム酸は、リシンという必須アミノ酸を元に人工的に合成されたアミノ酸の一種で、1962年に日本の研究者である岡本歌子博士と岡本正輔博士によって開発されました。もともとは抗線維素溶解薬として出血を抑えるために使用されており、その主な作用は、血液凝固を溶かす酵素「プラスミン」を抑制することにあります。この「抗プラスミン作用」により、手術や外傷後の出血、さらには月経過多の治療にも用いられ、その効果は広く認められています。
加えて、トラネキサム酸は口内炎や喉の腫れなどの治療にも使用され、さらには毎日使う歯磨き粉にも配合されるなど、非常に多用途に利用されています。
トラネキサム酸が肝斑治療に使われるようになった背景には、1979年に蕁麻疹や血管性浮腫の治療中に、偶然肝斑にも効果があることが発見された経緯があります。この発見により、トラネキサム酸は皮膚の色素沈着、特に肝斑に対する治療に応用され始めました。メラニンの過剰生成を抑えるその抗プラスミン作用は、メラノサイトの働きを抑制し、肝斑の改善に大いに貢献していることが確認されています。この効果は、肝斑に悩む多くの患者にとって画期的な治療法となり、現在では広く利用されています。
肝斑の生成に関与するプラスミン
肝斑は、紫外線やホルモンバランスの変化、摩擦、さらにはストレスや遺伝的要因など、複数の外的・内的要因が絡み合って発症・悪化するとされています。
肝斑の複雑な生成過程には、「プラスミン」と呼ばれる酵素が重要な役割を果たしています。プラスミンは通常、血液の凝固を溶かす役割を持っていますが、皮膚においては炎症を引き起こす因子として働きます。紫外線などの外部刺激を受けたケラチノサイト(表皮細胞)は、プラスミンやプロスタグランジンなどの炎症性物質を産生し、これがメラノサイト(色素細胞)にシグナルを伝達します。その結果、メラニンの生成が促進され、色素沈着が進行します。この過剰なメラニン生成が肝斑の原因の一つとされています。
トラネキサム酸が肝斑に効くメカニズム
トラネキサム酸が肝斑に効果を発揮するメカニズムは、複数の生物学的過程を介して作用することが分かっています。肝斑は、メラニンの過剰生成や炎症、さらには血管新生などの複雑な要因が関与するため、トラネキサム酸はこれらに対して多方面から働きかけるのです。
- プラスミンの抑制
トラネキサム酸の主な作用は、「抗プラスミン作用」です。プラスミンは、メラノサイト(色素細胞)を刺激し、メラニンの生成を促進します。トラネキサム酸はこのプラスミンの活性を抑制し、メラノサイトが過剰にメラニンを生成するのを防ぎます。これにより、肝斑の色素沈着が抑えられ、シミの改善が期待できます。
- 炎症反応の抑制
炎症は肝斑の形成に深く関与しています。外部からの紫外線や摩擦などの刺激が皮膚の炎症を引き起こし、これがメラニンの生成を加速させます。トラネキサム酸は炎症性サイトカイン(例えばプロスタグランジンやIL-1)の生成を抑えることで、炎症によるメラニンの増加を防ぎ、肝斑の発症や悪化を抑える役割を果たします。
- 血管新生の抑制
肝斑の形成には、皮膚の血管新生も関与している可能性が指摘されています。肝斑の病変部では、微小な血管が増加し、血管がメラノサイトの活性を助長することがあります。トラネキサム酸は、血管新生を抑制する作用があり、これにより肝斑の進行や再発を抑制します。この効果により、肝斑の症状が改善されやすくなります。
- メラニン輸送の抑制
トラネキサム酸は、メラノサイトで生成されたメラニンがケラチノサイト(表皮細胞)へと輸送されるプロセスを抑制することも報告されています。これにより、メラニンが皮膚表面に蓄積するのを防ぎ、色素沈着が軽減されます。メラニンの輸送抑制は、肝斑を含むシミの治療において非常に重要な役割を果たしています。
トラネキサム酸の肝斑に対する治療効果を示す日本の研究
トラネキサム酸は日本で開発された薬剤で、その肝斑に対する治療効果は数多くの研究で検証されています。以下に、代表的な研究結果を示します。
■信州大学による研究(1985年)
この研究では、40名の肝斑患者に対してトラネキサム酸を1日1000〜1500mg投与したところ、約83%の患者が4週間以内に症状の改善を示しました。具体的には、9例が「著効」、24例が「有効」と評価され、肝斑に対するトラネキサム酸の早期かつ高い効果が確認されました。
■堺市立病院による研究(1988年)
さらに、堺市立病院の研究では、11名の肝斑患者にトラネキサム酸(1000〜1500mg/日)を1〜2ヶ月間投与した結果、全ての患者において肝斑の軽減が見られました。この研究では、トラネキサム酸の投与を中止すると症状が再発する傾向があることが確認されましたが、治療中に顕著な副作用は報告されていませんでした。
トラネキサム酸の肝斑に対する治療効果を示す海外の研究
トラネキサム酸の肝斑治療に対する効果は、海外においても多くの臨床試験によって立証されています。。
■ 韓国での臨床試験(2013年)
韓国で行われた研究では、50人の肝斑患者を対象に、トラネキサム酸を1日250mg、12週間にわたって経口投与した結果、肝斑面積と重症度指数(MASI)が著しく減少しました。治療終了後の24週間でも、再発率が低く、効果の持続性が確認されています。この研究では、トラネキサム酸の投与による色素沈着の改善が評価され、持続的な効果が証明されました。
■ オーストラリアでの研究(2016年)
561名の難治性肝斑患者を対象としたオーストラリアの研究では、トラネキサム酸250mgを1日2回、平均4ヶ月間投与した結果、約90%の患者が2ヶ月以内に症状の改善を示しました。治療中止後、27.2%の患者で再発が見られたものの、多くの患者において改善が維持されました。また、副作用として7.1%の患者に軽度の消化器症状が報告されましたが、安全性の高い薬剤であることが確認されています。
■ ネパールでの臨床試験(2012年)
ネパールで行われた研究では、40名の肝斑患者を対象にトラネキサム酸の経口投与が行われ、12週間で肝斑の症状が大幅に改善されました。この研究でも、副作用が少なく、トラネキサム酸が安全で効果的な治療法であることが強調されています。特に、肝斑に対する治療効果の早期発現と持続性が注目されました。
■メタアナリシスによる検証(2017年)
過去の研究を検証したレビュー(メタアナリシス)では、667人の肝斑患者を対象とした11の研究を総合的に分析した結果、トラネキサム酸単独での治療後、肝斑が明らかに改善することが確認されました。さらに、レーザートーニングなどの他の治療にトラネキサム酸を追加することでさらに改善効果が高まることも認められました。
副作用としては、軽度の月経減少、腹部の不快感、一時的な皮膚の刺激などが報告されていますが、これらは比較的軽微であり、トラネキサム酸の安全性は高いと結論づけられています。
トラネキサム酸の肝斑治療における内服方法と副作用
■トラネキサム酸の内服方法
トラネキサム酸(トランサミン)は肝斑治療において広く使用されており、推奨される標準的な投与量は以下の通りです。
・1日2〜3回、1回250〜500mgを経口摂取します。通常の治療期間は8〜12週間で、効果が見られるまでには4〜8週間がかかることが多いです。
・効果を最大限に引き出すため、トラネキサム酸は他の治療法(レーザー治療やビタミンイオン導入)と併用することが推奨されています。特に、難治性の肝斑には複数の治療法を組み合わせることで、より良い結果が得られることが多いです。
■トラネキサム酸の副作用
トラネキサム酸は非常に安全な薬剤とされていますが、いくつかの副作用が報告されています。主な副作用とその発生率は以下の通りです:
・軽度の消化器症状:腹痛、吐き気、膨満感、下痢などが約7%の患者に報告されています。
・月経不順や頭痛も一部の患者で見られることがありますが、これも軽度であり、治療を続けることができるケースが多いです。
・血栓症リスク:トラネキサム酸は抗線維素溶解作用を持つため、血栓のリスクが理論的に考えられます。ただし、肝斑治療に使用されるトラネキサム酸の用量は低いため、臨床試験では重大な血栓症の発生率は非常に低いです。
■トラネキサム酸の安全性と注意点
トラネキサム酸はアミノ酸の一種であるため、非常にに安全な薬剤とされており、この薬剤は、肝斑のない人が服用しても特に害はありません。また、長期使用にも耐えうる薬剤です。しかし、血栓リスクのある患者や重度の腎機能障害を持つ患者には使用が禁忌とされています。
まとめ
本記事では、トラネキサム酸(トランサミン)が肝斑治療においてどのように効果を発揮するか、そのメカニズムと併せて詳しく解説しました。トラネキサム酸は、単独での使用でも高い治療効果が期待できますが、レーザートーニングやビタミンCのイオン導入などの他の治療法と組み合わせることで、さらなる効果を発揮することが多くの研究で確認されています。また、トラネキサム酸(トランサミン)はアミノ酸由来であるため、副作用が少なく、非常に安全性が高いとされています。肝斑治療を検討している方々にとって、この情報が参考になり、最適な治療法選択の一助となれば幸いです。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医として20年以上の経験がある。美容外科医でありながら、肌治療にも精通している。万能のニキビ治療機器アグネスを日本にいち早く導入し、これまでアグネスの治療は延べ1万人を超える。シミ治療、にきび、ニキビ跡治療に定評がある。【関連項目】
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