投稿日:2025/04/12
(最終更新日:2025/04/12)
ワキガとアポクリン汗腺、そして皮膚の黒ずみの関係を医学的に解説
「ワキの臭いが気になる」、「脇の下の黒ずみが目立ってきた」。このような悩みを抱える方は少なくありません。特に思春期以降、体臭の変化や肌の色調変化を自覚する人は多く、デリケートな問題であるだけに、人知れず悩みを抱える方も多いのが現実です。本記事では、こうした症状の原因となるアポクリン汗腺に着目し、ワキガと皮膚の黒ずみがなぜ同じ場所に現れやすいのかを医学的視点から解説します。単なる体質や加齢だけではない、ホルモンや生活習慣との関係も丁寧に紐解いていきます。
ワキガとアポクリン汗腺の基礎知識
まず「ワキガ」とは何でしょうか。ワキガ(腋臭症〈えきしゅうしょう〉とも呼ばれます)は、主に腋の下から強い体臭が発生する状態を指します。ワキガの原因の中心には アポクリン汗腺 という汗腺の存在があります。私たちの身体には2種類の汗腺があります。一つは全身に分布し水のようなサラサラした汗を出す エクリン汗腺 です。もう一つが アポクリン汗腺 で、これは脇の下や乳首周囲、陰部など特定の部位の毛穴に集中して存在し、少し白く濁ったベタベタした汗を分泌します。アポクリン汗はエクリン汗と異なり、水分以外にタンパク質や脂質、糖質、アンモニアなどを豊富に含んでいます。実はこの成分そのものが直接臭うわけではなく、皮膚の常在細菌がそれらを分解することで独特の不快な臭いが発生します。これがワキガのニオイの正体です。
アポクリン汗腺から出る汗は動物でいえばフェロモン(においによる情報伝達)に関わるとも考えられており、生存に必須の機能ではありません。ワキガ体質の方は、生まれつきこのアポクリン汗腺の数や活動が多めである場合が多く、遺伝による要因が大きいとされています。しかしワキガ自体は生理的な現象であり病気ではありません。日本人は体臭に敏感な傾向がありますが、ワキガ体質は決して珍しいものではなく、多くの場合健康上の問題ではないことをまず理解しておきましょう。
アポクリン汗腺が集中する部位の特徴
アポクリン汗腺は身体の特定の部分に集中しています。代表的なのは腋の下(ワキ)、そして乳輪(乳首の周り)、陰部(デリケートゾーン)です。これらの部位にはいずれも毛穴が多く存在します。アポクリン汗腺は毛穴(毛包)の中に開口して汗を出すため、その数は体毛の量と関係が深く、重度のワキガの人は腋毛の量が多いケースがほとんどです。思い返せば、これらの部位は体毛が多く生える場所でもあります。腋毛や陰毛は思春期以降に発毛が始まりますし、乳輪の周囲にも産毛程度の毛が見られることがあります。
また、アポクリン汗腺が多い部位にはいくつか共通した特徴があります。皮膚同士が擦れ合う部分であること、汗や皮脂による湿り気がこもりやすいこと、そして下着や衣服で覆われて刺激を受けやすいことです。例えば腋の下や鼠径部(脚の付け根の陰部周辺)は日常的に動作で擦れ、通気性も悪く汗が蒸れがちです。乳首の周りも下着による圧迫や擦れが生じます。さらに、これらの部位はホルモンの影響を受けて発達する性感帯でもあり、皮膚の性質が他の部位とは少し異なっています。乳輪が他の皮膚より色が濃いのは誰しも経験するところですが、陰部の皮膚も他の場所と比べて色素が沈着しやすい傾向があります。
総じて、アポクリン汗腺の集中する部位は「毛が多く、摩擦や蒸れなどの刺激を受けやすい場所」であると言えます。このことが、後述する色素沈着(黒ずみ)との関係に深く関わってきます。
思春期とホルモン変化による皮膚の黒ずみとの関係
思春期は身体に大きな変化が訪れる時期です。男女とも、この時期に性ホルモンの分泌が高まります。実は性ホルモン(テストステロンやエストロゲンなど)はアポクリン汗腺の働きを活発にする作用があります。そのため幼い頃には目立たなかったワキガの症状も、第二次性徴にあたる思春期(おおよそ小学校高学年~中高生頃)になると強まってきます。実際、思春期まではワキガの症状が見られないのはホルモンの影響によるもので、アポクリン汗腺自体は赤ちゃんの頃から存在していても、思春期になって性ホルモンの分泌が増えて初めて活発に働き始めるのです。
同じ思春期には、皮膚の色にも変化が起こります。多くの方、とくに女性では思春期を境にホルモンの影響でメラニン色素(肌の色素)が増加し、それまで子供の頃は全身ほぼ同じ色だった皮膚の一部が以前よりも少し黒ずんだ状態へと変化します。これは決して珍しいことではなく、例えば女性の乳輪は思春期から成人にかけて明らかに色が濃くなることが知られています(妊娠・出産時にはさらに濃くなることがあります)。陰部(外陰部の皮膚、男性では陰嚢)も同様で、思春期以降は大半の人で他の肌よりも色素沈着が進みます。思春期を過ぎたほとんどの人では、デリケートゾーンの肌は体の他の部分よりも暗い色になることは普通なことです。これは性ホルモンに対して、その部位のメラノサイト(色素細胞)が敏感に反応するためです。実際エストロゲンなどのホルモンは乳輪や陰部の色素沈着を促す作用があることが医学的にも示されています。
以上をまとめると、思春期のホルモン変化は「ワキガの原因となる汗(アポクリン汗)の増加」と「皮膚の黒ずみ(メラニン沈着)の増加」を同時にもたらすものと言えます。したがって、ワキガ体質の方がちょうど思春期以降に「臭いも強くなるし、皮膚も黒ずんできた」と感じるのは、ごく自然な身体の反応なのです。この段階ではアポクリン汗腺自体が直接皮膚を黒くするわけではなく、ホルモンによって活性化した汗腺と同じくホルモンによって活性化したメラニン産生細胞という別の仕組みが関与しています。
→合わせて読みたい「中学生・高校生に最適なワキガ治療とは?思春期に適した方法」」
黒ずみとアポクリン汗腺の“間接的”な関係
では、アポクリン汗腺(ワキガ)と皮膚の黒ずみには直接どんな関係があるのかを考えてみましょう。結論から言えば、アポクリン汗腺そのものが皮膚を黒く変色させるわけではありません。しかしアポクリン汗腺が多い部位では様々な要因が重なって色素沈着が起こりやすくなります。その意味で、ワキガと黒ずみには間接的な関係があるのです。
間接的な関係の一つ目は、前述のホルモン環境の共通性です。思春期以降にアポクリン汗腺が活発な人は、同じくホルモンの影響でその部位のメラニン色素も増えやすい土壌があります。これは偶然同じ時期に起こる別個の現象ですが、結果として「アポクリン汗腺が多い部位は他より黒っぽい」状態になりやすいわけです。
二つ目は、汗や皮脂による刺激です。アポクリン汗は放っておくと細菌に分解され悪臭の原因になります。そのためワキガ体質の方は念入りに脇を洗ったり、強力な制汗剤を使ったりしがちです。しかし、制汗剤(デオドラントスプレー)の使用が皮膚の黒ずみを生む大きな原因になることがあります。例えばスプレー式の制汗剤を近距離から吹き付ければ、その噴射圧による刺激は皮膚には想像以上のダメージになりますし、ロールオンやクリームタイプでもゴシゴシ塗り込めば摩擦刺激になります。さらに、制汗剤は汗腺にフタをして発汗を抑えるため、毛穴に老廃物が詰まりやすく炎症(かぶれ)を起こす原因にもなります。こうした刺激や炎症は色素沈着(黒ずみ)の大きな原因です。実際、ワキガの人が脇に黒ずみができやすい主な理由は「ワキガを気にして制汗剤を多用することで生じる皮膚ダメージ」にあると指摘されています。
三つ目の関係は、摩擦と湿度の問題です。アポクリン汗腺が多い部位は先述したように、構造上どうしても摩擦や蒸れが起きやすい場所です。肌と肌がこすれ合う刺激や、衣服と擦れる刺激が慢性的に加わると、皮膚は守ろうとしてメラニン色素を増やし黒ずみ(状態としては「慢性的な軽い炎症後の色素沈着」)を起こします。特に脇の下は汗をかきやすく常に湿った状態になりやすいので、余計に摩擦によるダメージが大きくなります。実際、脇の下の黒ずみ原因として最も多いのは摩擦であり、きつい服による摩擦や肌同士のこすれで徐々に皮膚が黒ずむとされています。加えてカミソリでの剃毛やワックスによる脱毛も皮膚に小さな炎症を起こし、繰り返すと黒ずみの原因になります。ワキガ体質の方は脇毛のお手入れを頻繁にする傾向があるかもしれませんが、それが結果的に色素沈着を招くケースもあるのです。さらには、汗そのものも黒ずみの一因です。特にアポクリン汗は放置すると皮膚表面で細菌繁殖を招きやすく、軽い炎症やかゆみを起こすことがあります。また常に湿った状態だと角質がふやけて摩擦ダメージが増幅します。そのため「汗っかきであること」「ワキ汗が多いこと」自体も脇の下の黒ずみを悪化させる原因になり得ます。
このように、アポクリン汗腺が多い部位ではホルモン的要因、生活習慣的要因(制汗剤の使用やムダ毛処理法)、物理的要因(摩擦や湿度)などが重なり合って色素沈着が起こりやすくなるのです。言い換えると、ワキガ体質だから直接黒ずむわけではないが、ワキガ体質の人は黒ずみに悩みやすい環境が整ってしまっているとも言えます。この間接的な関係を理解し、適切な対策を取ることで黒ずみは予防・改善できる可能性があります。
皮膚の黒ずみの予防・対処方法
黒ずみ(色素沈着)を予防・改善する方法について、医学的な視点からいくつか提案します。ポイントは先ほど述べた原因を取り除くことにあります。
摩擦を減らす
皮膚どうし、あるいは皮膚と衣類の摩擦をできるだけ減らしましょう。具体的には締め付けの強い服や下着を避けることが有効です。脇の下なら袖ぐりの余裕がある服を選ぶ、陰部なら通気性の良い下着を選ぶなど工夫してください。また、肌をこすりすぎないように日頃から注意しましょう。脇をゴシゴシ洗う、デオドラントを強く塗り込む、といった行為は避けるべきです。
適切なムダ毛処理
脇毛やデリケートゾーンの毛を処理する場合、肌に優しい方法を選びましょう。カミソリで頻繁に剃ったり、脱毛テープやブラジリアンワックスで毛を引き抜いたりするのは強い刺激になります。可能であればクリニックでの医療レーザー脱毛など、毛根へのダメージは与えても肌表面へのダメージが少ない方法が理想です。自己処理する場合も、シェービング前後にしっかり保湿し、清潔な道具を使うなど肌荒れを防ぐ工夫をしてください。
制汗剤の使い方を見直す
ワキガ対策に制汗剤を使う場合、その使い方を見直しましょう。スプレーはできるだけ肌から離して短時間で噴霧する、ロールオンやクリームは優しく塗布するなど摩擦を最小限にします。また一日の終わりには制汗剤を優しく洗い落とし、成分を肌に残さないことも大切です。強い成分(アルコールや金属塩など)の制汗剤を長期間多用することも避け、必要以上に汗を止めないようにしましょう。汗拭きシートの使い過ぎや頻繁な石鹸での洗浄も脇の乾燥を招くので注意が必要です。
保湿と清潔の維持
脇やデリケートゾーンはついスキンケアを怠りがちですが、実は保湿ケアが黒ずみ予防に重要です。お風呂上がりなどに低刺激の保湿クリームを薄く塗って肌の潤いを保ちましょう。ただしデリケートゾーンの場合、粘膜部分にクリームが付かないよう注意が必要です。さらに、汗や汚れを放置しないことも大切です。日中は清潔な汗取りパッドを使ったり、こまめに汗を拭いて肌を清潔かつ乾燥しすぎない状態に保つよう心がけてください。
医療機関での相談・治療
それでも黒ずみが気になる場合や自分では改善が難しい場合、皮膚科や美容皮膚科に相談するのも一つの方法です。医療機関では、色素沈着を薄くする外用薬(ハイドロキノンやトレチノイン配合クリーム等)や、ケミカルピーリングなど専門的な治療の選択肢があります。たとえば脇の下の黒ずみに対しては、弱めのピーリングでくすんだ角質を除去する治療が行われることがあります。また、黒ずみの根本原因の一つでもあるワキガ症を治療することも有効でしょう。
医師と相談し、効果と安全性のバランスを考えながら適切な治療を受けることで、自己流の危険なケアに頼らず安心してケアできます。ただし、治療を受けるかどうかはあくまでご自身の意思で決めるものであり、無理に行う必要はありません。
以上のような対策を組み合わせることで、アポクリン汗腺が多い部位の黒ずみはかなり予防・改善が期待できます。一朝一夕に劇的に白くすることは難しいですが、肌への負担を減らす生活を続ければ徐々に色調が整っていくでしょう。
まとめ
ワキガ(アポクリン汗腺)と皮膚の黒ずみの関係について、医学的な視点から解説してきました。結論として、ワキガ体質と黒ずみは同じ部位に起こりやすいものの直接の因果関係はなく、主に思春期以降のホルモン変化や物理的刺激によって両者が併発しやすくなっているということがお分かりいただけたかと思います。ワキガの原因であるアポクリン汗と、その部位の色素沈着には共通の要因が多いため、切り離せない問題として悩む方も多いでしょう。しかし、どちらの悩みも正しい知識に基づいたケアや治療で和らげることが可能です。
何より知っておいていただきたいのは、これらは決して特殊な悩みではなく、多くの人に見られる生理的な変化だということです。デリケートゾーンや脇の下の肌が他より少し黒っぽくなるのは、実は誰にでも起こり得るごく自然な現象です。「自分だけが異常なのでは?」と不安になる必要は全くありません。ワキガについても同様で、冒頭で述べたようにそれ自体は病気ではなく、人によって体質的に多少におう差があるというだけのことです。
大切なのは、正しい理解を持った上で適切に対処し、過度に思い悩まないことです。もし黒ずみや体臭がご自身の生活の質を下げてしまうほど気になるようであれば、遠慮なく専門の医師に相談してください。プロの視点から安全で効果的なケア方法を提案してもらえます。一方で、「多少の色の濃さや体臭は個性の範疇」と前向きにとらえることも大切です。実際、人間の肌は誰でも部位によって色に差があるものですし、年齢とともに変化もします。それは自然なことであり、恥ずかしいことではありません。
本記事の内容がお悩みの理解と解決に向けて少しでもお役に立てば幸いです。自分の体の特徴を知り、正しくケアしつつ、ありのままの自分を受け入れていくことが、長い目で見て最も健やかな対処法と言えるでしょう。どうか必要以上に心配しすぎず、ご自身のペースでケアを続けてみてください。専門家の力も借りながら取り組めば、ワキガも黒ずみもきっと今より気にならない状態に近づけるはずです。あなたの体はあなただけの大切なもの。正しい知識で向き合い、少しずつでも自信を取り戻していきましょう。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。20年以上の経験があり、ワキガ、スソワキガの治療例はこれまで延べ1万人を超える。【関連項目】
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