投稿日:2025/05/17
(最終更新日:2025/05/17)
女性の陰部にできる被角血管腫とは?症状・原因・治療を解説
被角血管腫(ひかくけっかんしゅ)は、皮膚の表面近くにある毛細血管が拡張し、表皮が厚く角化することで生じる良性の血管性病変です。一般には小さくて赤紫色~黒色のいぼ状の隆起として現れ、表面がややざらつくのが特徴です。男性の陰嚢(陰のう、睾丸の袋)に好発することから「陰嚢被角血管腫」とも呼ばれますが、同様の病変が女性の外陰部(大陰唇など)にも発生することがあります。これは、正式にはと呼ばれます。外陰部被角血管腫それ自体は良性(がんではない)で伝染もしないため基本的に安心できる病変ですが、見た目から他の病気と間違えられやすく、不安や煩わしさの原因にもなります。このブログ記事ではこの女性の陰部にできる被角血管腫(外陰部被角血管腫)について詳細に解説します。
女性外陰部にできる被角血管腫の症状と頻度
女性の外陰部(特に大陰唇)は、発生学的に男性の陰嚢と同じ由来の組織であり、そのため被角血管腫が女性にも発生します(言わば「女性版の陰嚢被角血管腫」)。
中年以降の女性に一側の大陰唇に複数個あらわれるケースが一般的です。
大きさは数ミリ程度(2~5mm前後)で、色は暗赤色~紫あるいは黒っぽく見えます。表面は角質が厚くなっているため少し硬くザラザラしており、初めは特に痛みなどの自覚症状がないことも多いです。しかし、下着との摩擦や性交時の刺激で出血しやすいことがあり、擦れるとにじむように血が出たり、触ると少し痛んだりかゆく感じたりする場合もあります。実際、海外文献でも大半の患者は無症状だが、一部で間欠的な出血やかゆみ、痛みを訴えるとされています。さらに女性の場合、部位的に性交時に痛み(性交痛)や違和感を生じることも報告されています。
典型的には40歳前後から閉経前くらいまでに発症する例が多いようですが、稀ながら10代で巨大化した症例もありました。全体として女性の外陰部における被角血管腫は稀で、ある調査では全般的な有病率はわずか0.16%程度と推定されています(男性の陰嚢では高齢になるほど頻度が上がり、70代では約16%とも)。しかし、「実は文献で報告されているよりも多く存在している可能性もある」との指摘もあります。いずれにせよ珍しい疾患である故に情報が限られているため、初めて気づいた際には本人も驚いたり戸惑ったりすることが多いでしょう。
参照元:Multiple Angiokeratomas of the Vulva: Case Report and Literature Review
外陰部被角血管腫の発症原因とリスク要因
男女ともに被角血管腫ができる明確な原因は完全には解明されていませんが、加齢に伴う皮膚組織の変化や静脈圧の上昇などが関与すると考えられています。被角血管腫の組織学的には、血管周囲の弾性線維の変性・劣化が認められ、これが毛細血管の拡張を招く一因とされています。要するに、皮膚の支えが弱くなって血管が膨らみやすくなる状態です。また、陰部という場所柄、いきむ動作や妊娠などで局所の静脈圧が高まることも発症に関与すると言われます。実際に報告例では、患者さんに静脈瘤(下肢静脈瘤)や慢性的な便秘といったうっ血傾向の体質があったケースもあります。
他にも妊娠中に病変が出現・増大した例や、月経周期に合わせてサイズが変化した例もあり、ホルモンや血行動態の変化との関連が示唆されています。さらに、出産経験の多さ(経産回数の多さ)や肥満、腹圧がかかる持病(例:重度の便秘や慢性咳嗽、痔など)、過去の婦人科手術歴(子宮摘出歴)などもリスク要因として挙げられるようです。一部の報告では、外陰部の慢性的な炎症疾患(外陰部硬化症など)やヒトパピローマウイルス(HPV)感染との関連も指摘されています。
例えば、ある40歳女性のケースでは性交痛の治療目的で会陰形成術を受けた後、妊娠を経て大陰唇に多数の被角血管腫が生じたと報告されています。この患者さんは妊娠4か月頃から病変に気づき始め、出産後数年間にわたり増え続けたとのことです。
以上のように、年齢や体質的な要因に加え、妊娠・出産や手術、持病など様々な要素が重なって発症に至ると考えられます。ただし明らかな基礎疾患がなくても発症する場合があり、多くは偶発的かつ良性の皮膚変化と捉えられています。
↑大陰唇にある女性の外陰部被角血管腫
被角血管腫と似た病変との鑑別ポイント
外陰部に黒っぽいできものができると、「ほくろ(色素性母斑)かな?」とか「皮膚がん(悪性黒色腫)だったらどうしよう?」などと心配になるかもしれません。また場所が場所だけに「性病のいぼ(尖圭コンジローマ)では?」と不安になる方もいるでしょう。被角血管腫はこうした他の病変と非常に紛らわしいため、専門家でも肉眼だけで判断が難しい場合があります。実際に鑑別すべき代表的な疾患には、以下のようなものがあります:
ほくろ(色素性母斑)
良性の色素斑で、色は茶色~黒。一方、被角血管腫は血管由来なので赤紫~黒色で、表面に角化による膜があるため黒いかさぶたのように見えることもあります。見た目が似る場合もありますが、ほくろは圧迫しても色が変わらないのに対し、被角血管腫は血液の色なので圧迫すると一時的に色が薄くなることがあります(ただし完全には平坦になりません)。
悪性黒色腫(皮膚がん)
皮膚がんの一種で、不規則な形状・色調変化・急な拡大傾向が特徴です。被角血管腫は大きさがほぼ一定でゆっくり増える傾向があり、メラノーマのように急速に大きくなったり周囲に広がったりは通常しません。しかし鑑別は極めて重要で、疑わしい場合は皮膚生検(組織検査)で確定診断を行います。幸い被角血管腫であれば組織検査で悪性所見はなく、拡張した毛細血管と表皮の角化が確認されます。
赤あざ(血管奇形や乳頭腫などの血管腫)
被角血管腫は時に赤アザ、例えば苺状血管腫(乳児にできる赤いイチゴ様の腫瘍)や静脈湖(年配者の唇にできるような青紫の斑点)など他の血管腫との鑑別も必要になります。ただし大人の外陰部に突然できる赤アザとなると稀であり、被角血管腫である可能性の方が高いでしょう。鑑別には同じく組織検査が有用です。
尖圭コンジローマ(HPVによるいぼ)
性行為感染症の一種で、小さな鶏冠状やカリフラワー状のいぼが陰部全体に増殖することがあります。色は肌色~茶色で柔らかく、血管腫のような暗赤色ではない点が異なります。しかし実際に被角血管腫が尖圭コンジローマと誤診されたケースもあるため注意が必要です。専門医はダーモスコピー(拡大鏡)で血管の構造を見るなどしてある程度鑑別可能ですが、確実には生検で組織を調べます。
その他
外陰部の良性腫瘍では脂漏性角化症(年寄りいぼ)、リンパ管腫(リンパ管拡張症)、慢性皮膚炎に伴う結節(結節性痒疹)などが鑑別に挙げられます。悪性ではメラノーマの他に外陰部上皮内腫瘍なども念のため除外します。専門家でもパッと見ただけでは判断が難しいこともありますので、「ただの血豆だろう」と自己判断せず、心配な場合は皮膚科や婦人科で診察を受けることをおすすめします。
外陰部被角血管腫の美容面・心理面での影響
外陰部被角血管腫は命に関わる病気ではなく、基本的には痛みも強くないため医学的には放置可能なケースも多いです。しかし、特に女性の場合はデリケートゾーンにできる見た目の問題や「悪い病気ではないか」という不安から、精神的な負担が大きくなることがあります。実際、海外の症例報告でも「患者は性交時の不快感に加え、この病変があることで強い心理的ストレスを感じていた」と記載された例があります。複数の黒い斑点が陰部にあるとパートナーに見られるのも恥ずかしく感じるかもしれませんし、自分でもつい気になってしまうでしょう。また、出血しやすいと下着を汚す原因になったり、生理用ナプキンやおりものシートとの摩擦で悪化しないか心配になったりもします。こうした美容上・生活上の悩みから治療を希望する女性も少なくありません。幸い、被角血管腫は完全に取り除くことも可能な病変ですので、後述する治療法を検討する価値は十分にあります。
なお、被角血管腫は性感染症ではなく、パートナーにうつる心配はありません。その点は安心して良いでしょう。
外陰部被角血管腫の治療方法
治療が必ずしも必要な病変ではないものの、症状があったり、美容的な希望がある場合には治療で除去することができます。以下に代表的な治療方法を挙げます。
経過観察と局所ケア
痛みや出血がほとんどなく数も少ない場合、定期的に観察しながら様子を見る選択肢があります。この際、摩擦を避けるために柔らかい下着を身につけたり、入浴時に強く擦らないようにするなどのケアが推奨されます。
炭酸ガスレーザー治療
近年は炭酸ガスレーザーによる蒸散・焼灼一般的に行われています。レーザーは外来で短時間で行え、施術が簡便です。再発もあまり起こりません。傷跡を最小限にしたい場合に適した治療と言えます。
電気焼灼・凝固(電気メス)
病変部を電気的に焼く方法です。デメリットとしてはレーザーと比較して処置後に軽い痛みや色素沈着が残る可能性がありますが、場所が粘膜に近いこともあり傷の治りは比較的良好です。
外科的切除
メスで病変部を切り取って縫合する方法です。大きな単発病変(巨大化したもの)や、他の治療で再発を繰り返す場合などに検討されます。切除すれば確実に病変を除去できますが、傷跡が線状に残ること、術後のダウンタイムがあることがデメリットです。
まとめ
女性の陰部に発生する外陰部被角血管腫は稀ではありますが、良性の皮膚病変です。小さな赤黒い斑点が大陰唇などに複数見られ、基本的には無害ですが、出血しやすかったり見た目の問題から悩みの種になることがあります。ほくろや皮膚がん、性感染症のいぼ等と間違えられやすいため、専門医による診断が重要です。幸い、被角血管腫は命に関わるものではなく、レーザー治療や切除などできれいに取り除くことも可能です。
不安な症状がある場合は恥ずかしがらず医療機関を受診し、適切なアドバイスや治療を受けてください。大切なのは、良性で治療可能な病変であることを理解し、過度に心配しすぎないことです。一方で自己判断で放置せず、専門家の判断を仰ぐことで安心につながります。デリケートな悩みこそ、一人で抱え込まずに相談してみてください。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。美容外科医として20年以上のキャリアがある。女性器、男性器の整形手術を多く行っている。モナリザタッチを日本にいち早く導入し、これまでのべ1000人以上の患者様を治療している。【関連項目】
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