投稿日:2024/06/10
(最終更新日:2024/06/10)

鼻のヒアルロン酸による壊死:経過と症状とメカニズム

鼻のヒアルロン酸壊死

ヒアルロン酸やフィラーによる注入部位の壊死は、美容皮膚科や美容外科の施術において最も深刻な合併症の一つです。過去には週刊新潮により湘南美容外科での鼻の壊死に関する記事が掲載され、大きな話題を呼びました。また、フィラーによる壊死が訴訟や裁判に発展することもあり、マスコミが取り上げることでさらに注目を集めることがあります。

現在では、発症のメカニズムやリスクが解明されつつあり、十分な経験を持つ医師による施術であれば、このような合併症が発生するリスクは極めて低くなっています。また、迅速な対処方法も確立されつつあるため、たとえ合併症が発生しても深刻な事態を回避することが可能です。しかし、未熟な医師や知識が不十分な医師が増加している現状では、再びヒアルロン酸による壊死が散発している事実も見受けられます。

この記事では、美容外科歴20年以上の元神医師が、鼻のヒアルロン酸注入によって引き起こされる血流障害や皮膚の壊死について、その具体的な症状や発症までの期間、経過、などを詳細に解説します。また、壊死のメカニズムについても触れ、対処法についても詳述します。

※なお記事中の写真はすべて参照元の論文より抽出しております。

鼻のヒアルロン酸で壊死が起こる確率

ヒアルロン酸は現在、鼻やその周辺の美容外科手術で広く使用されています。ヒアルロン酸は、他の注入材(フィラー)と比較して可逆性が高く、ヒアルロニダーゼで完全に分解できるため、顔の美容整形において特に人気があります。鼻唇溝や鼻、額への注入が一般的で、比較的安全であり、プチ整形や顔の若返りに効果的とされています。しかしながら、特に鼻への注入では、血管障害などの深刻な合併症を引き起こすことがあります。

ある研究によると、針でヒアルロン酸を注入した場合の血管閉塞のリスクは約6410回の注射に1回とされています。このように、壊死のリスクは低いものの、完全に排除することはできません。

出典元:

The Risk of Skin Necrosis Following Hyaluronic Acid Filler Injection in Patients With a History of Cosmetic Rhinoplasty

 

ヒアルロン酸で鼻が壊死を起こしやすい理由

鼻は突出した構造で、血液供給が限られているため、顔の他の部位と比較して血流障害が起こりやすく、壊死のリスクが高い部位です。主要な血管が閉塞すると、代償的側副血行が不十分なため、特に鼻は血流障害を起こしやすくなります。また、鼻周囲の血管には解剖学的な変異がしばしば見られるため、さらに血流障害のリスクが高まります。このような解剖学的特徴から、塞栓症や血管圧迫が主幹血管を閉塞させると、鼻やその周囲に深刻な血管障害が発生する可能性があります。したがって、ヒアルロン酸注入を行う医師は、血管の解剖学的特徴や分布を理解し、致命的な血管障害を避けるための十分な知識を持っている必要があります。適切な技術と知識を持つ医師による施術が不可欠です。

鼻のヒアルロン酸壊死が起こる鼻周囲の血管

↑鼻の周囲の血管。他の部位と比べて血管の分布が少ない

出典元:

SYMPTOMS AND TREATMENT OF NECROSIS OF THE NOSE AFTER FILLER INJECTION

ヒアルロン酸注入後の血流障害が起こる期間について

ヒアルロン酸注入後の血管障害は、注入直後に限らず、最大で約7日間にわたって発生する可能性があります。このため、注入後直ちに痛みや不快感があった場合だけでなく、数日後に症状が現れた場合にも注意が必要です。特に、水疱、擦過傷、糜爛といった皮膚の目に見える病変は、注射後1〜2日では目立たないことが多く、時間とともに徐々に悪化する傾向があります。医師はこれらの症状を見逃さず、迅速に適切な治療を行うことが求められます。

患者が症状を訴えた場合には、医師は即座に血管障害を疑い、集中的な治療を開始することが重要です。迅速な対応が深刻な合併症を防ぐ鍵となります。

ヒアルロン酸で鼻の壊死が起こるメカニズムと症状

ヒアルロン酸注入後の血管障害は、最も深刻な合併症の一つであり、局所血管の閉塞、圧迫、損傷によって引き起こされます。特に鼻周囲の血液供給と密接に関連しており、血管が閉塞すると鼻の血流障害が発生します。血液供給の障害による病態生理は完全には解明されていませんが、主に動脈塞栓型と非動脈型に分類されます。

■動脈塞栓型の症状とメカニズム

動脈塞栓型は、ヒアルロン酸が直接動脈に注入されることで発生します。動脈が塞栓すると、血流障害を引き起こした部位の皮膚が白くなり、熱感や強い痛みを伴います。その後、痛みとともに糜爛や潰瘍が形成され、黒色のかさぶたを伴う壊死が進行します。この壊死は、通常ヒアルロン酸注入後7日以内に急速に進行します。壊死の範囲に関わらず、早期の集中的な治療が行われても予後は良くないことが多いです。

動脈型閉塞の鼻のヒアルロン酸壊死

↑動脈塞栓型はこのように広汎に壊死することもあり得る。

(写真は参照元の論文より)

■非動脈型の症状とメカニズム

血管障害の第二のタイプである非動脈型は、主に血管の圧迫によって引き起こされると考えられますが、その正確なメカニズムはまだ完全には解明されていません。現時点では、限られたスペースに多量のヒアルロン酸が注入されることで生じる浮腫が隣接する血管を圧迫し、血流障害を引き起こすという仮説が有力です。また、ヒアルロン酸に対する過敏性反応による化学的な血管損傷も一因と考えられています。

非動脈型の症状は、動脈塞栓型ほど重篤ではなく、回復の可能性が高いです。典型的な症状には紅斑、小水疱、膿疱、表皮のびらん、およびあざのような暗赤色の変色が含まれます。壊死の進行は比較的ゆっくりで、早期かつ適切な治療を行えば長期的な後遺症を残すことなく回復することが多いです。

この非動脈型の血管障害は、さらに局所型と広範囲型に分類されます。広範囲の非動脈性病変は予後が悪く、早期治療にもかかわらず後遺症を残すことがありますが、限局性病変の場合は早期治療により良好な回復が期待できます。したがって、非動脈型の血管障害が疑われる場合は、早急に適切な治療を行うことが非常に重要です。

非動脈塞栓型壊死局所型

↑非動脈型のヒアルロン酸のよる鼻壊死の局所型。左より経過順。比較的に瘢痕が目立たない。

(写真は参照元の論文より)

非動脈型広汎型の鼻ヒアルロン酸壊死

↑非動脈型のヒアルロン酸のよる鼻壊死の広範囲型。左より経過順。局所型より瘢痕が目立つ結果となる場合が多い。

(写真は参照元の論文より)

 

ヒアルロン酸のよる鼻の壊死の症状(まとめ)

ヒアルロン酸による鼻の壊死は、動脈型と非動脈型で症状や進行速度が異なります。いずれの場合も、早期の適切な治療が重要です。

■動脈型

進行速度: ヒアルロン酸注入後7日以内に急速に進行。

主な症状: 注入直後の皮膚の白色化と痛み。その後暗赤色への変色、潰瘍形成と黒色痂疲

進行症状: 壊死が広範囲または局所的に進行。

■非動脈型

進行速度: 症状の出現が比較的ゆっくりで、回復も良好。

主な症状: 紅斑、暗赤色の紅斑、小水疱、膿疱、白っぽい潰瘍、びらん。

進行症状: 瘢痕拘縮による永続的な後遺症が残る可能性。

鼻のヒアルロン酸注入後の壊死が疑われる場合の対処法

もし鼻のヒアルロン酸注入後に痛みや熱感が持続し、皮膚が青白くなったり斑状出血が見られたりした場合、速やかに施術を受けたクリニックに連絡し、下記の適切な対応を求めてください。このような対応を迅速に行うことで、壊死の進行を最小限に抑え、回復を促進することが可能です。

■ヒアルロニダーゼの注射

血管障害が確認された場合、ヒアルロン酸を溶かす薬剤を壊死が迫る部位全体に注射します。

■局所の処置

患部は軟膏処置を定期的に行い、必要に応じてかさぶたを除去します。

■プロスタグランジンの点滴

末梢の血流を改善するため、プロスタグランジンを静脈内に投与します。これを1日1回、約7日間行うことが推奨されます。また、高気圧酸素療法も考慮するべきです。

まとめ

この記事では、しばしば訴訟問題と発展している鼻のヒアルロン酸注射による壊死という重篤な合併症について美容外科専門医の元神賢太が詳しく解説しました。壊死の発生は極めて稀であり、経験豊富な医師による施術であればそのリスクはさらに低くなります。しかし、鼻のヒアルロン酸施術は比較的簡単な治療と見なされがちで、そのため施術を受ける際に医師選びを軽視する傾向があります。深刻な合併症を避けるためには、信頼できる専門医を選ぶことが極めて重要です。施術を検討する際には、十分な情報を収集し、適切な医師に依頼することが重要です。この記事が参考になり、安全な美容施術の一助となれば幸いです。

 

筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。美容外科医として20年以上のキャリアがあり、アンチエイジング治療、リフトアップ治療を得意としている。第109回日本美容外科学会で「スプリングスレッドを併用したフェイスリフト手術」で学会発表し、好評を得た。切らないフェイスリフトのウルセラも日本国内に導入直後から取り入れており、第107回日本美容外科学会でもウルセラの学会発表を行っている。

【関連項目】

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