投稿日:2025/06/05
(最終更新日:2025/07/03)

多汗症の治療:最新ガイドラインに基づく効果的な対策

日常生活で「汗っかき」と言われるレベルを超えて、多汗症に悩む若い世代が少なくありません。多汗症とは、暑さや運動と無関係に手のひらや脇の下、足の裏などに大量の汗をかいてしまう症状です。

日本では原発性局所多汗症(特定の部位に起こる多汗症)の有病率は10~13%程度と報告されており、決して珍しいものではありません。例えば手のひらの多汗症(手掌多汗症)は約100人に3人(有病率2.9%)が該当するとされ、特に15~29歳の若年層に患者が多いことがわかっています。

しかしそのうち医療機関を受診して適切な治療を受けている人はごく一部(約4~6%)に過ぎず、多くの人が人知れず汗の悩みを抱えているのが現状です。若い年代では「年齢とともに改善するかも…」と治療を諦めてしまうケースも多いようですが、適切な対策をとれば日常生活の質を大きく向上させることが可能です。

本記事では、日本皮膚科学会の最新のガイドラインである2023年改訂版「多汗症診療ガイドライン」の内容を踏まえ、最新の多汗症治療法について専門医がわかりやすく解説します。

多汗症の原因や重症度の判断方法、そしてガイドラインで推奨される多汗症の治療(特に新しい医療機器を使った治療法)まで、ポイントを押さえて説明します。若い世代の方でも無理なく取り入れられる治療もありますので、「汗っかきだから仕方ない」と諦める前にぜひ参考にしてください。

多汗症とは?原因と症状の特徴

多汗症は身体の発汗調節のバランスが崩れ、必要以上に汗が分泌される状態です。汗腺の数や大きさが人より多いわけではなく、交感神経系の過敏な反応によって汗腺が過剰に働いてしまうことが主な原因とされています。緊張やストレスなどの感情刺激に対して汗をかく反応が人一倍強く、体温調節に必要な範囲を超えて発汗してしまうのです。また、多汗症には遺伝的な要因も指摘されています。

研究では多汗症が常染色体優性遺伝の形式でみられるケースがあり、性別に関係なく家族内で発症しやすいことが分かっています。ただし遺伝子の多様性により症状の程度や現れ方は個人差が大きく、一家族の中でも発症する人としない人がいることもあります。

多汗症は全身に起こり得ますが、特に手のひら、足の裏、脇の下、顔面・頭部などに局所的な多汗が生じることが多いです。これを「原発性局所多汗症」と呼び、他の病気(甲状腺機能亢進症や糖尿病など)によらない体質的な発汗過多を指します。

原発性局所多汗症の特徴として、思春期までに発症することが多く(多くは25歳以下で症状が出現)、左右対称に発汗し、睡眠中は症状が治まることが挙げられます。これらは診断の重要なポイントで、例えば「最初の発症年齢が25歳以下」「左右両方に汗をかく」「寝ている間は汗が出ない」など6項目中2項目以上に当てはまれば原発性多汗症と診断されます。

手掌多汗症の診断

手の多汗症症状が6か月以上続き、以下の6症状のうち2項目以上当てはまる場合は、原発性手掌多汗症と診断されます。

  1. 最初に手の多汗症の症状が現れたのが25歳以下。
  2. 左右の手のひらに汗をかく。
  3. 睡眠中は発汗が止まっている。
  4. 1週間に1回以上、手の多汗症がみられる。
  5. 家族に同じ症状の方がいる。
  6. 手汗のために日常生活に支障をきたしている。

※つまり加齢に応じて肥満になったり、更年期により寝汗が出るようになったりした場合は、原発性多汗症とは言えないということです。

また、症状が日常生活にどの程度支障をきたすかで重症度を評価する指標としてHDSS(多汗症疾患重症度スケール)があります。これは患者さん自身の自覚症状に基づき発汗による生活障害度を1~4段階で評価するもので、2023年版ガイドラインにも重症度判定法として掲載されています。

例えば「発汗は全く気にならない(1度)」から「発汗は我慢できず常に日常生活に支障がある(4度)」まで分類され、スコア3以上が重度多汗症の目安となります。HDSSを用いることで客観的に症状を把握し、後述する治療効果の判定にも役立てられます。

▼HDSS

スコア

自覚症状

1

発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない

2

発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある

3

発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある

4

発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある

▶️ 合わせて読みたい記事:手汗が多い原因は遺伝?最新の治療方法は?

多汗症の治療法と2023年最新ガイドライン

多汗症の治療には、症状の程度や発汗する部位に応じて様々な選択肢があります。日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン(2023年改訂版)」では、まずはできる限り体への負担が少ない方法から段階的に治療を行い、十分な効果が得られなければ次の段階の治療に進むというアルゴリズムが推奨されています。

近年は新しい外用薬や医療機器も登場し、治療の幅が広がってきました。そこで、次からは主要な治療法を挙げ、その特徴と最新知見を解説します。

参照元: 原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023 年改訂版

外用療法(塗り薬と制汗剤)

まず第一選択となるのが外用抗コリン薬(塗り薬タイプの発汗抑制剤)と局所制汗剤です。外用抗コリン薬は汗腺を刺激する神経伝達物質(アセチルコリン)の作用をブロックし、汗の分泌を抑える薬です。現在日本で使用できるものとして、脇汗用のエクロックゲル(ソフピロニウム臭化物)やラピフォートワイプ(グリコピロニウムトシル酸塩の含浸シート)、手汗用のアポハイドローション20%(オキシブチニン塩酸塩ローション)があり、いずれも保険適用で処方可能です。

使い方は夜間就寝前に患部に塗布(またはシートで拭き取り)、翌朝洗い流すだけと簡便で、臨床試験では4週間の継続使用で約60%の患者に重症度が1段階以上改善する効果が報告されています。一方で皮膚のかぶれや乾燥など軽度の副作用が出ることもあります。また、市販の制汗剤(塩化アルミニウム液など)も外用療法の一つです。塩化アルミニウム製剤は汗腺の開口部を塞いで発汗を減らす効果があり、高濃度(一般に20~30%以上)を就寝前に塗布することで手軽に試せます。

患者の約6割で発汗の改善が見られたとの報告もありますが、肌への刺激が強いため赤みやかゆみなど刺激性接触皮膚炎を起こすことがあり注意が必要です(肌が弱い方は低濃度から試すか、症状の強い時期だけ集中的に使うなど工夫します)。

イオントフォレーシス(電気浸透療法)

手のひらや足の裏の多汗症では、イオントフォレーシスと呼ばれる物理療法も第一選択肢の一つです。これは水を入れた容器に手足を浸し、微弱な電流を流すことで汗腺の導管を一時的に閉塞させ、発汗を抑える治療です。週に数回の頻度で開始し、効果が出てきたら週1回程度のペースで維持療法を行います。施術中にピリピリした刺激を感じる程度で特別な痛みはなく、皮膚への大きな負担もありません。

副作用も軽度の皮膚刺激や乾燥が見られる程度で安全性の高い治療です。機器の用意が必要ですが、近年は家庭用のイオントフォレーシス装置も市販されており、医師の指導のもと自宅で継続することも可能です。手足の多汗症治療として古くから実績があり、保険適用も認められています。

ボトックス注射(A型ボツリヌス毒素の局所注射)

いわゆるボトックス注射も、多汗症治療において非常に効果的な方法です。ボツリヌス毒素製剤を発汗の多い部位の皮下に細かく注射することで、汗腺を支配する交感神経の神経伝達をブロックし、過剰な発汗を止めます。特に脇の下(原発性腋窩多汗症)に対する有効性は確立されており、重度の腋窩多汗症には2012年からボトックス注射が保険適用となっています。

手のひらや足裏、頭・顔の汗に対してもボトックスは効果があり、注射直後から「嘘のように汗が止まる」ことも多くの患者さんで実感されます(※脇以外の部位のボトックスは保険適用外です)。

効果の持続期間は約6か月前後で、症状に応じて年に1~2回程度繰り返し治療するのが一般的です。注射時に痛みを伴うため手足への施術ではマスク麻酔やブロック麻酔を併用することもあります。また手掌や足底では、まれに一過性の筋力低下(握力低下など)が起こる場合がありますが、これは投与量に比例し発現するもので通常は数日~数週間で回復します。ボトックス注射は施術時間が10~15分と短くダウンタイムもほぼないため、仕事や学校で忙しい若い方でも取り入れやすい治療と言えるでしょう。

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医療機器を用いた最新治療(切らない多汗症治療)

近年登場した医療機器による多汗症治療も注目されています。代表的なものに、高周波RFを照射するビューホット、マイクロ波を照射するミラドライなどがあります。いずれも皮膚を切開せずに汗腺自体を物理的エネルギーで破壊する「切らない多汗症治療」であり、一度破壊された汗腺は基本的に再生しないため半永久的な効果が期待できる点が最大のメリットです。中でも筆者が特におすすめするのは「ビューホット」という高周波RF治療機器です。ビューホットは直径0.3mmほどの極細針を多数皮膚に刺入し、針先端から高周波エネルギーを照射して汗腺のみをピンポイントに破壊する最新医療機器です。

治療部位の表面を冷却保護しながら進めるため皮膚表面へのダメージは最小限で、施術後も目立つ傷跡は残りません。片ワキの施術時間は約10分程度と短時間で完了し、身体への負担が少ないため同じ日に複数部位を治療することも可能です。実際、ビューホットは腋窩だけでなく手のひらや足の裏など従来の手術では治療が難しかった部位にも応用可能である点が画期的です。事実、ビューホットは腋の下の多汗症・わきが治療として日本に導入されましたが、私のクリニックではいち早く手掌多汗症(手汗)や足底多汗症(足汗)、陰部ワキガ症(すそわきが)に対してビューホット施術を行い、成果を出しております。

筆者のクリニックでもマスク麻酔による完全無痛麻酔下で手のひら・足裏へのビューホット治療を行っており、手汗・足汗の発汗量を30~50%程度軽減できた患者さんが多くいらっしゃいます。一度の治療で得られた効果は半永久的に持続し、煩わしい汗に悩まされない生活が期待できます。ビューホットは発汗だけでなくワキガ(腋臭症)の原因となるアポクリン腺も同時に破壊するため、汗の量だけでなく臭いの悩みもまとめて解消できるメリットがあります。

欠点としては、治療部位に点状の跡が一時的に残ること、手足の施術では痛みが強いためマスク麻酔が必要となること、施術後に赤み・腫れ・内出血・一時的な感覚鈍麻などが生じることですが、これらの副作用は数週間~数か月で軽快しダウンタイムも比較的短いです。切開手術のような大きな傷跡の心配もなく、「できるだけ確実に汗を減らしたいが手術は避けたい」という若い世代の患者さんには最適な治療法と言えるでしょう。

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内服薬(飲み薬)

発汗を抑える薬剤を内服する方法もあります。代表的なのは抗コリン薬の内服で、プロパンテリン臭化物(商品名プロ・バンサイン)やグリコピロニウム臭化物、さらには抗不安薬の一種であるクロニジンや漢方薬が処方されることもあります。抗コリン薬を飲むと全身の発汗をある程度減らすことができますが、薬の作用が全身に及ぶ分、副作用も出やすくなります。具体的には口の渇き、目のかすみ(散瞳)、喉の渇き、皮膚の乾燥、便秘、排尿困難、動悸、眠気などが頻繁に見られ、人によっては日常生活に支障をきたすことがあります。

また前立腺肥大症や緑内障のある方には禁忌となる薬剤もあります。海外の多汗症治療ガイドラインでは「外用療法やイオントフォレーシス、ボトックスなど局所療法が無効な場合にのみ内服治療を検討する」とされており、若年のうちから長期にわたり内服薬に頼ることは認知機能などへの影響も不明なため推奨されません。内服療法はあくまで他の方法が効果不十分な場合の補助的選択肢と考えるのが良いでしょう。

外科的治療(手術)

手掌多汗症治療における最終手段として、胸部交感神経遮断術(ETS)という手術による治療があります。内視鏡下に交感神経幹を切断またはクリップで遮断する手術で、手のひらの発汗はほぼ100%の症例で劇的に止まります。しかしその代償として、体の他の部分(背中や太もも、お腹周りなど)に大量の汗をかいてしまう代償性発汗という副作用が高確率で生じます。特に中等度以上の重い代償性発汗が起こるリスクは決して低くなく、一旦起きてしまった代償性発汗を完全に防いだり治したりする方法は現時点で存在しません。

そのためガイドラインでも「ETS施行前に代償性発汗について十分に患者に説明し同意を得ること」を強調しており、安易に選択すべきではない治療と位置付けられています。実際、ETSは重度の手掌多汗症で他の治療が全く効かない場合のみに限定して検討される最終手段です。一方、腋窩多汗症(脇汗)や腋臭症(わきが)に対しては、脇の下の汗腺を直接除去する外科手術があります。皮膚を数センチ切開して皮下のエクリン汗腺・アポクリン汗腺を掻爬(かき出し)または剪除する方法で、汗と臭いの根本治療となり効果は永久的です。

手術法にもいくつか種類があり、剪除法、吸引法、超音波法などがありますが、いずれも傷跡が多少残ることと術後の圧迫固定やダウンタイムが必要になる点は避けられません。とはいえ症状がワキガ症を合併している多汗症の場合には有力な選択肢です。昨今は前述のミラドライやビューホットなど切らない治療が普及しつつありますが、それでも症状が改善しないケースでは外科的治療が検討されることになります。

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若年層の多汗症にはどの治療がおすすめ?

以上のように多汗症の治療法は多岐にわたります。それでは、特に10~30代の若い多汗症患者さんにはどのような治療が適しているのでしょうか。基本的には症状の程度と日常生活への支障度によって選択は異なりますが、若年層の場合は将来の長い人生を見据えて「できるだけ負担が少なく、かつ根本的な解決に近い方法」を選ぶことが重要です。まず汗の量がそれほど多くない軽症であれば、外用薬(抗コリン薬ローションや制汗剤)で十分コントロールできるケースもあります。手足のひどい汗でお困りなら、イオントフォレーシスを自宅で続けることで症状が和らぐことも期待できます。

これらは副作用も少なく学校や仕事をしながら無理なく取り組めるため、初期治療として試す価値があります。一方、「テスト中に手汗で答案が濡れてしまう」「緊張すると握手できないほど手に汗をかく」「夏場でなくても常に脇汗パッドが手放せない」といった中等度~重度の多汗症では、外用薬だけでは不十分なことも少なくありません。そのような場合、ボトックス注射は即効性が高く確実に汗を止めてくれるためおすすめです。特に発汗が活発な夏場だけでもボトックスを打っておけば快適に過ごせるでしょう。

ただし効果が数ヶ月で切れてしまうため、「毎年継続するのが面倒」「根本的な治療がしたい」という方もいるでしょう。そのようなニーズに応えるのがビューホットといった先端医療機器による治療です。特にビューホットは、一度の施術で長期にわたり汗の発生源を減らせる画期的な方法であり、脇汗だけでなく手汗・足汗にも応用できる点で優れています。筆者も多汗症治療に取り組む医師として、多汗症に悩む若い患者さんには積極的にビューホットを検討いただきたいと考えています。もちろん費用面などハードルもありますが、「汗っかき体質」を一生ものの悩みにしないために、早いうちから根本治療に踏み切る価値は大いにあるでしょう。

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まとめ

どの治療法にも一長一短がありますので、最終的には患者さん個々の状況に合わせた選択が大切です。多汗症はデリケートな悩みですが、適切な治療で改善できる症状です。

 

まずは多汗症治療の経験が豊富な医師に相談し、無理のない方法から取り組んでみましょう。若い皆さんが多汗症のストレスから解放され、もっと自信を持って日常生活を送れるよう、専門家として全力でサポートいたします。

 

筆者:元神 賢太(もとがみ けんた) 船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学病院などで外科医として経験を積み、日本外科学会専門医・日本美容外科学会専門医を取得。美容外科医として20年以上のキャリアを持ち、原発性手掌・足底・顔面・頭部多汗症に対する無痛ボトックス注射(マスク麻酔併用)を日本でいち早く導入した。さらに多汗症・ワキガ治療機器のビューホットも日本国内にいち早く導入し、腋臭症(ワキガ)や多汗症治療の症例数は累計で1万件を超える。常に患者さんに最適な治療を提供すべく日々研鑽を重ねている。

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