投稿日:2024/09/05
(最終更新日:2024/09/05)

肝斑の原因とリスク要因:知られざる様々な原因について

肝斑の発生メカニズムは、現時点では完全に解明されていません。しかし、近年の研究により、原因や悪化要因については徐々に明らかになりつつあります。これは他の多くの疾患にも共通する現象です。たとえば、日本で最も多く見られる胃がんも、ピロリ菌感染や遺伝的要因、ストレスなどがリスク要因として知られているものの、正確な発生原因はまだ不明な点が多いのです。

本記事では、肝斑の発生に関わるさまざまな原因や肝斑を悪化させるリスク要因について詳しく解説します。

肝斑(かんぱん)とは?

肝斑は、特に女性に多く見られる色素沈着の一種で、顔の特定の部位に左右対称に現れるのが特徴です。茶色から灰色がかった褐色のシミとして、主に頬、額、鼻、口の周囲、顎に発生します。原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因に加え、ホルモンバランスの乱れや日常的な太陽光(紫外線、可視光線、赤外線)への曝露が、肝斑の発症および悪化に大きく影響を与えるとされています

 肝斑の原因①:遺伝的要因

肝斑は、多くの要因が関与する多因子疾患であり、その中でも遺伝的素因は重要な要因の一つとされています。遺伝的要因が関与する根拠として、同じ遺伝子を共有する一卵性双生児がともに肝斑を発症するケースが報告されており、家族内での発症リスクが高いことが示唆されています。さらに、いくつかの研究では、肝斑が常染色体優性遺伝に従う可能性が示されています。つまり、家族歴がある場合、肝斑を発症するリスクが高まることが知られています。

また、人種的な傾向も確認されており、肝斑は特にアジア系や中南米系の人々に多く見られることが分かっています。このように、遺伝的要素は肝斑の発症に強く関連しており、遺伝的に感受性が高い人々において、ホルモンの変動や紫外線への曝露、皮膚の炎症などの外的要因が発症を誘発しやすいと考えられています。

出典元:Update on Melasma—Part I: Pathogenesis

肝斑のビフォーアフター

↑筆者による肝斑治療のビフォーアフター(レーザートーニング5回)

 肝斑の原因:ホルモンの変化

肝斑は、ホルモンバランスの変動、特にエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの影響を強く受けることが知られています。妊娠中や経口避妊薬の使用中に肝斑が悪化するケースが多く報告されており、これがホルモンの役割を示唆しています。実際、妊娠中の女性の14.5%56%に肝斑が発生し、ホルモン避妊薬を使用する女性の11%46%が同様に肝斑を発症することが確認されています​。

ホルモンの変化は、メラニン生成を刺激し、特にエストロゲンとプロゲステロンが皮膚に対して影響を与えます。これらのホルモンは、皮膚に存在するエストロゲン受容体」を通じて、メラニン生成を促進すると考えられています。特に顔の皮膚にはエストロゲン受容体が広く分布しており、これが肝斑の発生部位と一致することから、ホルモンの影響が重要な要因とされています​。

しかし、肝斑患者における血清ホルモン値については、まだ矛盾した研究結果が多く、すべてのメカニズムが解明されているわけではありません。興味深いことに、男性における肝斑は、性腺機能低下症やテストステロン値の低下と関連することが示唆されており、性腺刺激剤を使用した若年男性においても発症例が報告されています。また、フィナステリドを使用した男性型脱毛症(AGA)治療中に肝斑が発症した例もあり、男性におけるホルモンバランスの変動も肝斑のリスク要因として注目されています​。

このように、肝斑は女性だけでなく、男性のホルモン変化とも関連があり、発症の背景には複雑なホルモンの影響が関与していることがわかっています。

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肝斑の原因③:太陽光への曝露

肝斑は、特に日光を多く浴びる部位に現れやすく、日光曝露がその発症や悪化において極めて重要な要因とされています。亜熱帯地域で肝斑の発症率が高いことや、日焼けの後に症状が悪化することから、太陽光は肝斑のリスクを大きく左右する環境要因です。太陽光は、主に可視光線、紫外線、赤外線で構成されており、それぞれが皮膚に与える影響は異なります。

■紫外線

太陽光の中でも最も肝斑に影響を及ぼす紫外線(太陽光の約5% )は、UVBUVAの二種類に分けられ、どちらもメラノサイトを刺激してメラニンの生成を促進します。

特にUVA(紫外線の約95%)は皮膚の深部まで到達し、長期的な肌老化や色素沈着、さらには皮膚がんのリスクを高める要因となります。UVAは曇りの日や窓ガラスを通しても届くため、注意が必要です。

UVB は地表に到達する紫外線の約5%ですが、皮膚への影響は非常に強力です。表皮(皮膚の最も外側の層)に直接影響を及ぼし、肌を赤くし、いわゆる「サンバーン」を引き起こす主な原因です。特に夏の晴天時や、標高の高い場所ではUVBの強さが増します。

■可視光線

太陽光の約40%を占める可視光線は、最近の研究により、特に青色光(ブルーライト)がメラニン生成を刺激する可能性があることが分かってきました。このため、シミや色素沈着が生じるリスクが指摘されています。ただし、室内灯や電子機器からの照明による青色光(ブルーライト)は、皮膚の色素沈着には無関係であるとする研究発表もあり、今後さらに研究・検証が必要です。

■赤外線

赤外線(太陽光の約50% )は主に皮膚を加熱し、長時間の曝露により炎症や乾燥を引き起こす可能性があります。また、真皮層に到達し、コラーゲンやエラスチンに影響を与え、紫外線と同様に皮膚の老化を促進することが知られています。

以上、紫外線、可視光線、赤外線の太陽光が複合的に作用することで、肝斑が発症しやすくなり、症状が悪化することがあります​。適切な日焼け止めの使用が肝斑予防に重要である一方、紫外線や青色光を完全に遮断することは困難であり、特に日常的な屋外活動が多い人にとって、日光への曝露による肝斑の発生は避けられない要因になります。

肝斑のレーザートーニングビフォーアフター

↑肝斑に対してレーザートーニング5回施術の前後

肝斑悪化に影響する見落とされがちな要因:摩擦

肝斑は遺伝的要因やホルモンの変動、太陽光曝露が主な発症・悪化要因とされていますが、これ以外にも肝斑を悪化させる外的要因が存在します。その中でも特に注目すべきは「摩擦」です。日常のスキンケアやメイク落としによる繰り返しの摩擦が、肝斑の悪化に深く関わることが示唆されています。

顔の皮膚は非常に繊細であり、過剰な摩擦が色素を生成するメラノサイトを刺激し、メラニンの過剰生成を引き起こす可能性があります。特に、強力なクレンジングや洗顔の際の過度な物理的刺激は、皮膚に微細な炎症を引き起こし、それがメラニン生成を促進し、肝斑を悪化させるリスクを高める要因となります。また、摩擦によって皮膚の最外層である角質層が損傷すると、皮膚のバリア機能が低下し、紫外線やその他の外部刺激に対して過敏になりやすくなります。これにより炎症が進行し、結果的に肝斑がより悪化しやすい環境が作られるのです。

日常的に肌を守るためには、優しくクレンジングを行い、摩擦を最小限に抑えることが重要です。また、角質層を保護するために保湿ケアを欠かさないことも、肝斑の予防や悪化防止に役立ちます。

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肝斑悪化に影響する隠れた要因:睡眠不足

遺伝、ホルモン変動、太陽光曝露が肝斑の主な要因として知られていますが、近年注目されているのが「睡眠不足」の影響です。いくつかの研究により、睡眠不足がストレスを引き起こし、それによって皮膚における活性酸素が増加し、肝斑を含む色素沈着疾患の悪化に関与することが示されています。睡眠は、皮膚の新陳代謝や修復において重要な役割を担っており、十分な休息が取れないと、肌の再生プロセスが阻害され、メラニンの過剰生成や色素沈着が促進されるリスクが高まります。

さらに、睡眠不足はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促進します。コルチゾールの増加は、肌に炎症を引き起こし、それが結果的に色素沈着を悪化させる可能性があります。肝斑はストレスと密接に関連しているため、睡眠の質を改善し、十分な休息を取ることが、肝斑の予防や症状の軽減に寄与する可能性があるのです。

肝斑悪化の見逃せない要因:接触性皮膚炎の影響

接触性皮膚炎も肝斑を悪化させる重要な要因の一つです。特に、特定の化粧品やスキンケア製品、外用薬に含まれる成分が、接触性皮膚炎を引き起こし、それが肝斑の発症や悪化に寄与する可能性があることが明らかになっています。

接触性皮膚炎は、アレルギーや化学的な刺激によって皮膚が炎症を起こす状態であり、この炎症がメラノサイトを刺激してメラニンの過剰生成を引き起こすことが考えられます。皮膚が繰り返し炎症を起こすと、肝斑の色素沈着が悪化し、治療が困難になることがあります。また、これらの炎症は皮膚のバリア機能を弱体化させ、紫外線やその他の外部刺激に対して敏感になることで、肝斑のリスクがさらに高まるのです。

さらに、香料や保存料、染料といった一般的な化粧品成分が、接触性皮膚炎を引き起こしやすいことも報告されています。特に敏感肌の人やアレルギー体質の人は、この影響を強く受ける可能性があり、適切なスキンケアや製品の選択が肝斑の予防に重要な役割を果たします。

肝斑の悪化を引き起こす医療行為について

肝斑は、特定の医療行為によって悪化する可能性が指摘されています。特に、化学的ピーリングや強力パルス光(IPL)などの美容施術後に、肝斑が新たに発生したり、既存の肝斑が悪化するケースが報告されています。これらの治療は、皮膚の再生を促進し、色素沈着を改善するために行われる一方で、過度な炎症や皮膚のバリア機能の低下を引き起こす可能性があります。こうした炎症後の色素沈着(PIH)は、肝斑の症状を悪化させる要因として注目されています。

特に強力パルス光(IPL)は、皮膚の色素をターゲットにして光を照射することでシミやそばかすを改善する治療法ですが、皮膚深部への熱影響が肝斑を誘発または悪化させるリスクがあるとされています。IPL治療後に炎症が生じ、その結果メラノサイトが刺激され、過剰なメラニン生成が引き起こされることが要因の一つと考えられています​。

また、化学的ピーリングは表皮の古い細胞を取り除き、新しい細胞の再生を促す治療ですが、過剰な剥離や刺激により皮膚が弱くなり、紫外線や外的要因に敏感になりやすくなるため、肝斑が悪化するリスクを高めます。このため、こうした治療を受ける際には、肝斑を発症するリスクが高い人や、既に肝斑を抱えている人には慎重な判断が必要です。

肝斑悪化に影響を与えるその他のストレスや環境因子

肝斑の発症や悪化には、ストレスや環境要因も重要な役割を果たしており、近年ではその影響がますます注目されています。過度なストレスは、体内のホルモンバランスを乱し、コルチゾールなどのストレスホルモンの分泌を促進します。これが、メラニン生成を活性化させ、肝斑を悪化させる可能性があります。特に長期的なストレスが続くと、肌の回復力が低下し、色素沈着が深刻化することが報告されています。

また、都市部や工業化社会に住む人々は、大気汚染物質に日常的にさらされる機会が多く、その影響も肝斑の発症に関連しています。PM2.5やその他の大気中の有害物質が皮膚の酸化ストレスを引き起こし、メラニン生成を促進することが確認されています。これにより、都市部や汚染の激しい地域では、肝斑の発症率が高まる傾向が見られます。実際、世界的に大気汚染指数が高い国々では、肝斑の発症が増加しているとの報告もあります​。

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まとめ

 このブログ記事では、肝斑の原因についてさまざまな角度から詳しく解説しました。肝斑は単一の原因によって引き起こされるものではなく、遺伝的要因、ホルモンバランス、太陽光曝露、摩擦や睡眠不足、さらにストレスや大気汚染など、多くの要因が複雑に絡み合っていることがわかります。この多因子性が、肝斑治療を難しくしている大きな理由です。

そのため、肝斑治療においては、レーザートーニングやビタミンCのイオン導入、トラネキサム酸の内服などの医療的なアプローチだけでなく、日常生活の改善も不可欠です。紫外線対策、ストレス管理、十分な睡眠の確保、摩擦を避けたスキンケアなど、生活習慣の見直しが肝斑の予防や症状の悪化防止に役立つとされています。

本記事が、肝斑に悩む方々にとって有益な情報源となり、治療や予防に対する理解を深める一助となれば幸いです。肝斑は根気強くケアすることが必要な疾患ですが、正しい知識と適切な対策を組み合わせることで、症状の改善は十分に可能です。

 

筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医として20年以上の経験がある。美容外科医でありながら、肌治療にも精通している。万能のニキビ治療機器アグネスを日本にいち早く導入し、これまでアグネスの治療は延べ1万人を超える。シミ治療、にきび、ニキビ跡治療に定評がある。

【関連項目】

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肝斑にレーザートーニングが効く理由:最も効果的な肝斑治療

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