投稿日:2024/09/20
(最終更新日:2024/09/20)
髪の発毛劇的な力を発揮する細胞成長因子【第30回女性薄毛】
(第29回「人間にも換毛現象?夏に多い季節的な抜け毛について」からの続き)
髪の毛が発毛・成長するためのメカニズムは非常に複雑で、その中心的な役割を担っているのが「細胞成長因子」と呼ばれるたんぱく質です。これらの成長因子は、毛包内の細胞に働きかけ、細胞分裂を促進し、健康な毛髪の成長をサポートします。従来、薄毛の原因やメカニズムについては多くの不明点がありましたが、近年の研究によって、毛周期(髪が成長し抜け落ちるサイクル)に関与する複数の成長因子が次々と発見され、その役割が徐々に明らかになってきました。それぞれの細胞成長因子の詳細なメカニズムは完全には解明されていないものの、これらの発見は薄毛治療の新しい可能性を広げています。本記事では、最新の研究成果に基づき、発毛を促進する細胞成長因子がどのように作用するのか、その役割や具体的なメカニズムについて詳しく解説していきます。今後の育毛治療や髪の健康維持に欠かせない情報となることでしょう。
細胞成長因子とは
細胞成長因子(Growth Factor, GF)とは、細胞の成長、分裂、分化、そして修復を促進する内因性のタンパク質やペプチドの総称です。成長因子は、体内のさまざまな細胞に働きかけ、組織や臓器の発達、傷の修復、免疫応答の調節など、生体の多くの重要なプロセスをコントロールしています。
細胞成長因子の主な機能
細胞成長因子は、特定の細胞表面に存在する受容体(リセプター)に結合することでその作用を発揮します。この結合により、細胞内のシグナル伝達経路が活性化され、次のような生物学的工程が誘導されます:
■細胞の増殖
細胞成長因子は、細胞が増えるための分裂(増殖)を促進します。これにより、組織が増えるか、傷が修復されます。
■細胞の分化
成長因子は、未成熟な細胞が特定の機能を持つ成熟した細胞に変化(分化)する過程を促進します。これにより、特定の機能を果たす細胞が形成されます。
■細胞の生存
成長因子は、細胞死(アポトーシス)を防ぎ、細胞の生存を促進します。これにより、健康な組織が維持されます。
■創傷治癒
皮膚や組織に損傷が生じた場合、成長因子は傷の修復を加速させます。例えば、血小板由来成長因子(PDGF)は、血小板が傷口に集まり、細胞の修復プロセスを開始させます。
■血管新生
いくつかの成長因子は、新しい血管の形成(血管新生)を促進します。これにより、酸素や栄養が十分に供給され、組織の成長や修復が効率的に進行します。
■代表的な細胞成長因子
以下は、主な細胞成長因子の一例です:
EGF(上皮成長因子):上皮細胞の成長と再生を促進し、皮膚の修復に関与します。
VEGF(血管内皮成長因子):新しい血管の形成を促進し、血流を改善します。
PDGF(血小板由来成長因子):創傷治癒や血管新生に関与し、組織の修復を助けます。
FGF(線維芽細胞成長因子):細胞の成長、血管新生、創傷治癒に重要です。
IGF-1(インスリン様成長因子-1):全身の成長や発達に関与し、特に骨や筋肉の成長に影響を与えます。
発毛に関わる細胞成長因子
発毛に関わる細胞成長因子(Growth Factors, GF)は、頭皮の健康を保ち、毛髪の成長を促進する上で重要な役割を果たします。これらの成長因子は、細胞の成長、分裂、修復、そして生存をサポートし、特に毛包(毛髪が成長する場所)の活動を活性化する効果があります。
ただし、すべての細胞成長因子が毛髪にプラスに働くわけではありません。例えば、IGF-1は毛母細胞の成長を促進し、毛包の健康を維持しますが、TGF-β1は、過剰なレベルでは毛包の退行を促し、毛髪の成長を抑制する役割を果たすことがあります。
このように、発毛を促進する良い成長因子がある一方で、毛包の機能を低下させる成長因子も存在します。以下の記事では、特に毛周期に関与する注目すべき細胞成長因子についてについて説明します。
KGF(ケラチノサイト成長因子)
KGF(ケラチノサイト成長因子)は、FGF(線維芽細胞成長因子)ファミリーに属する成長因子で、その中でもFGF-7としても知られています。KGFは、毛髪の成長と再生において極めて重要な役割を果たす成長因子の一つであり、特に毛母細胞や毛包に対して大きな影響を与えます。KGFはケラチン細胞の成長を促進し、毛髪の太さや強度を改善する働きを持っており、毛周期の成長期を延長させることで、髪の密度と質を向上させます。
特に、アデノシンという核酸の一種がKGFの分泌を刺激することが知られており、アデノシンを主成分とする育毛剤も多く市販されています。これにより、KGFの産生が増加し、髪の成長を効果的に促進します。
一方で、同じFGFファミリーに属するFGF-5は、逆に毛髪の成長サイクルを終了させ、毛髪の成長を抑制する作用があります。したがって、FGF-5の活動を抑制することによって、成長期を延ばし、髪の毛の成長を長期間にわたって維持することが可能となります。
IGF-1(インスリン様成長因子-1)
IGF-1(インスリン様成長因子-1)は、発毛において極めて重要な役割を担う細胞成長因子です。この成長因子は、毛母細胞の増殖を促進し、毛包の退行を抑制することで、髪の成長を長期間にわたってサポートします。特に、IGF-1の活性化により毛周期の成長期が延長され、髪の再生が促進されるため、髪の量や質を保つためには欠かせない要素とされています。
IGF-1の減少は、薄毛や脱毛の原因として広く研究されています。特に、加齢や生活習慣の変化によりIGF-1の分泌が低下すると、毛母細胞の働きが衰え、髪の成長が停滞するリスクが高まります。これに対して、IGF-1の分泌を促進する方法が注目されています。たとえば、大豆イソフラボンの摂取がIGF-1の生成を促進することが報告されており、これが育毛効果に結びつくことが示されています。
さらに、IGF-1は血行促進作用を持つため、頭皮の血流を改善し、毛根への栄養供給を高めることにも寄与します。このため、IGF-1を増やす手法は、さまざまな育毛剤や治療法の中でも重視されています。また、IGF-1は毛包の成長期を延ばすだけでなく、毛包幹細胞の保護にも役立つため、髪の太さや強度を向上させる効果も期待されています。
VEGF(血管内皮細胞成長因子)
VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)は、毛髪の成長を支えるうえで重要な役割を果たす細胞成長因子の一つです。特に、毛包周辺における「血管新生」を促進する能力に優れており、これにより毛包への血流が大幅に改善されます。血流の増加は、髪の毛の成長に必要な酸素や栄養素が効率よく供給されることを可能にし、健康で太く強い毛髪を育むための環境を整えます。
VEGFは、毛髪の成長サイクルにおける成長期を延ばす効果があり、結果的に毛包がより活発に機能し、髪の成長を促進します。これは、薄毛や脱毛症に対する治療の一環としても注目されています。特に、ミノキシジルなどの育毛剤はVEGFの分泌を促進し、血管拡張作用をもたらすことで知られています。これにより、頭皮の血流が活発になり、髪の成長が促されるのです。
EGF(上皮成長因子)
EGF(Epidermal Growth Factor)は、頭皮の細胞再生を促進する強力な成長因子であり、髪の健康と発毛において重要な役割を果たします。EGFの主な機能は、頭皮や毛包内の細胞を活性化させることで、ダメージを受けた頭皮の修復や新しい細胞の生成を促進することです。これにより、健康的な頭皮環境が整い、毛髪の成長が加速されます。
特に注目すべきは、EGFが休止期にある毛包を再活性化する能力です。毛包は通常、成長期、退行期、休止期というサイクルを繰り返しますが、休止期にある毛包は髪の成長が停止している状態です。EGFはこの休止期にある毛包を再び成長期へと導き、新しい髪の成長を促進します。このプロセスは、薄毛の改善や育毛治療において非常に効果的であるとされています。
PDGF(血小板由来成長因子)
PDGF(Platelet-Derived Growth Factor)は、発毛や毛髪の成長において重要な役割を果たす細胞成長因子の一つです。PDGFは主に毛包の成長を促進し、毛母細胞や毛包幹細胞の活性化を通じて、毛髪の生成をサポートします。また、この細胞成長因子は血管新生を強力に促進する効果を持ち、毛包周辺の微小血管を増やすことで、毛包に必要な栄養素や酸素が効率的に供給されるようにします。この結果、頭皮の血流が改善され、髪の成長環境が最適化されます。
PDGFの作用はこれだけにとどまらず、毛包周囲の線維化を防ぐ役割も持ちます。線維化が進行すると、毛包が硬くなり、髪の成長が抑制される原因となりますが、PDGFはこのプロセスを防ぎ、健康な毛髪の成長を維持します。さらに、PDGFは傷の修復を促進する成長因子としても知られており、頭皮の健康を保つための重要な役割を果たしています
HGF(肝細胞成長因子)
HGF(Hepatocyte Growth Factor)は、発毛において非常に重要な役割を果たす成長因子であり、特に毛包幹細胞の活性化に深く関与しています。この成長因子は、毛包の再生を促進し、髪の毛が健康に成長するための土台を作ります。HGFは、細胞の分裂や再生をサポートし、毛包の健康を維持することで、脱毛を防ぎ、髪の密度を保つ効果があります。これにより、髪が細くなるのを防ぎ、太く強い髪を育てる環境を整えることができます。
さらに注目すべきは、HGFが他の育毛成分、特にミノキシジルと相乗効果を持つ点です。ミノキシジル外用薬は、HGFの分泌を促進し、毛髪の成長をさらに強力にサポートすることが研究で示されています。ミノキシジルは、血管拡張作用を通じて頭皮への血流を改善し、HGFの効果を最大限に引き出すことで、より早く、持続的な発毛効果をもたらします。
BMP(骨形成タンパク質)
BMP(Bone Morphogenetic Protein)は、主に骨の形成に関与する成長因子として知られていますが、毛髪の成長サイクルにおいても重要な役割を果たしています。BMPは、毛髪の成長期から退行および休止期への移行を調整するシグナル伝達経路の一環を担っており、これによって毛包の活動が制御されます。具体的には、BMPの信号が強まると、毛髪は成長期から休止期へと移行し、成長が一時的に停止します。
近年の研究では、BMPの抑制が発毛促進に寄与する可能性が示唆されており、BMP信号を適切に制御することで、毛包が成長期にとどまり、毛髪の成長を持続させることができるとされています。特に、BMPシグナルを抑制することで、毛包幹細胞の活性化が促進され、休止期にある毛包を再び成長期に戻すことが期待されています。
TGF -β1及びTGF -β2
TGF-β1およびTGF-β2は、髪の成長サイクルにおいて退行期への移行を促進する因子として知られています。すなわちこれらは、毛包の機能を低下させ、髪の成長を抑制する作用を持つため、髪の成長にマイナスに作用する細胞成長因子です。
■TGF-β1(トランスフォーミング成長因子ベータ1)
TGF-β1は、特に男性ホルモンの影響を受けやすい毛包で生成され、男性型脱毛症においては、毛乳頭細胞でのTGF-β1の過剰産生が毛包のミニチュア化を引き起こすことが明らかにされています。TGF-β1は毛包周囲の線維化(瘢痕化)を促進し、これにより毛包上皮細胞の成長を抑制してしまうため、健康な毛髪の生成が妨げられます。このため、TGF-β1は「毛包の暗殺者」とも呼ばれ、毛包の退行を加速させる役割を果たします。
近年では、TGF-β1の抑制によって毛髪の成長を促進する治療法が注目されています。クルクミンや他の天然化合物がTGF-β1の過剰な活動を抑制する可能性が研究で示唆されており、これにより髪の成長サイクルが正常に維持されることが期待されています。
■TGF-β2(トランスフォーミング成長因子ベータ2)
TGF-β2も同様に、毛包の退行期を促進する作用を持ち、特に毛包がアポトーシス(細胞死)を経て成長を停止する過程に深く関与しています。TGF-β2の過剰な活性化は、早期の毛包退行を引き起こし、これが脱毛の原因となります。特に男性型脱毛症では、TGF-β2が毛包の退行を早め、薄毛の進行を加速させると考えられています。
さらに、TGF-β2は「Snail」遺伝子との相互作用を通じて、毛包の形態形成や成長過程にも影響を与えます。具体的には、毛包の形成を調整し、細胞接着に関与するEカドヘリンの発現を制御することで、毛包の健全な発達を妨げることが知られています。このため、TGF-β2を抑制することが、髪の成長促進につながる可能性が高く、現在もその効果を活用した治療法が研究されています。
まとめ
この記事では、髪の成長に関与するさまざまな細胞成長因子について詳しく解説しましたが、それでは、髪に良い影響を与える成長因子を効率よく体に取り入れるにはどうすればよいのでしょうか。最も効果的な方法として、ハーグ療法やヘアーバース注射のような、調整された細胞成長因子を直接頭皮に注射する治療法が挙げられます。これらの治療法は、医療機関でのみ提供され、個別に調整された成長因子を使用することで、患者の髪の成長を促進します。
私のクリニックでも、こうした注射療法を行っており、その成果は非常に顕著です。施術を受けた患者の多くが、髪の密度や質の改善を実感しており、長年悩んでいた薄毛の改善を実現しています。実際に私自身も、この治療法のおかげで豊かな髪を取り戻すことができました。細胞成長因子を活用した治療は、科学的根拠に基づく安全かつ効果的な方法として、多くの方に推薦できる最先端の発毛治療法です。興味のある方は、ぜひ専門の医療機関で相談してみてください。
筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。これまで延べ5万以上の薄毛治療を行う。著書に「専門医が徹底解説!女性の薄毛解消読本」(元神賢太著 / 幻冬舎)。女性の薄毛治療のほか、エイジングケア治療、美肌治療を得意としている。【関連項目】
「人間にも換毛現象?夏に多い季節的な抜け毛について」【女性薄毛第29回】
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