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投稿日:2024/02/17
(最終更新日:2024/09/11)

ハーブドリームの脂肪吸引の死亡事故の確率とは?【船橋中央クリニックの元神賢太医師が分析】

ハーブドリームで死亡事故

2024年2月15日、私は船橋中央クリニックの美容外科医として大きな衝撃を受けました。その日、大阪にあるハーブドリーム美容外科で発生したとされる頬の脂肪吸引後の患者の死亡事故がヤフーニュースで報じられ、手術を担当した医師が業務上過失致死で書類送検されました。船橋中央クリニック院長のこのブログ記事では、この脂肪吸引後の死亡事故という衝撃的なニュースについて深く掘り下げ、なぜこのような悲劇が発生したのかを、脂肪吸引手術に精通する私、元神賢太が美容外科専門医の観点から分析します。また、脂肪吸引手術の死亡率と安全性についても考察を加えます。

2024年2月15日の脂肪吸引のよる死亡事故の報道内容

(以下、ヤフーニュースより一部転載)

大阪府警は、業務上過失致死の疑いで、東京・渋谷区に住む男性医師を書類送検しました。 医師は去年4月、大阪市内にある「HAAB DREAM BEAUTY CLINIC大阪梅田院」(ハーブビューティークリニック;東京青山の外苑前にある美容外科の系列)で、頬部の脂肪吸引を48歳の男性に実施。警察によりますと、その際医師は手術による出血で血液が湿潤してのどが狭窄し、窒息が生じるおそれがあることを知り得たのに、死亡事故を未然に防ぐ注意義務を怠り、的確な医療措置を受けるよう指示しなかった過失で、脂肪吸引の翌日に男性患者を窒息により死亡させた疑いがもたれています。患者の男性は施術を受けたあと九州の自宅に戻り、医師に腫れあがった顔写真を送るなどして、術後の異常を訴えるやりとりをしていたということですが、警察は脂肪吸引手術の担当医師が救急要請などを行わず業務上の注意義務を怠り、的確な医療措置を受けるよう指示しなかった過失があるとみています。一方、脂肪吸引手術の担当医師は容疑を否認しているということです。取り調べに対して、「顔写真を見て医療機関の受診をすすめた。遠方にいる立場として、できることは病院に行くよう促すことで、これ以上してあげられることはなかった」などと話しているということです。

死亡事故のニュースに対する世論の波紋

ハーブドリームビューティークリニックでの脂肪吸引で死亡

この死亡事故に関するヤフーニュースのコメント欄を見ると、担当医師への批判のみならず、脂肪吸引手術自体や、広く美容外科治療への疑問が多く挙がっています。この反響は、単なる一件の事故に留まらず、美容外科手術の安全性とリスクに関する大きな社会的な議論を呼び起こしています。では、本当に脂肪吸引手術は高い死亡率を持つのでしょうか?手術の危険性はどの程度なのでしょうか?以下では、これらの疑問に対して専門的な観点から解説を加えていきます。

脂肪吸引の死亡率とは

脂肪吸引手術に伴う死亡率は、様々な研究や報告から集めたデータに基づくと、約0.003%から0.03%の範囲であるとされています。この比率は、全ての脂肪吸引手術におけるもので、病院での入院治療や外来治療を含めたものです。パーセンテージ表記にすると非常に小さい数字ですが、このデータの最小の0.003%での死亡率で考えた場合、10万件につき3名の死亡率となります。これはすべての脂肪吸引を死亡率であり、特に顔や顎の脂肪吸引に特化した統計は見つかりませんでした。これらのデータは、脂肪吸引の安全性を考える上で重要な参考になります。

出典元:

Report: Liposuction Death Rate Statistics

Liposuction Death Rate

 

2009年にも死亡事故の報道

今回は1年前の2023年の頬の脂肪吸引のよる死亡事故の報道です。2009年にも品川美容外科のお腹の脂肪吸引による死亡事故があり、医師が逮捕された事故が報道されました。その事故では医師は業務上過失致死罪により禁錮1年6月、執行猶予3年の判決が確定しております。ただ、このようにニュースになるのは医師が業務上過失致死罪の疑いで逮捕または書類送検された場合だけです。明らかな医療ミスの疑いがあった場合のみ、警察の介入があり、報道されるのであって、脂肪吸引の死亡事故のたびに報道があるわけでは決してありません。実際にはるかに多くの脂肪吸引の死亡事故は起こっているのです。

脂肪吸引で1年で1人くらいの死亡事故発生率

では報道されない脂肪吸引による死亡事故はいったいどのくらいあるのでしょうか?本当の数字は実際には誰にも分かりません。これは、多くのクリニックがメディアへの報道を避けるために患者と示談交渉を行い、事故を収束させるためです。しかしながら、長年美容外科をやっていると業界の横のつながりで、どこかの美容外科で死亡事故があった、という話はすぐに耳に届きます。その数は決して少なくありません。1年1回くらいは脂肪吸引による死亡事故がある感覚です。そこで日本で1年にどのくらいの脂肪吸引手術が行われているか、を調べてみました。その実数が正確には分かりませんでしたが、日本美容外科学会(JSAPS)の2017年の調査データによると、その年の脂肪吸引手術件数は7,785件でした。このデータを基に、日本での年間脂肪吸引手術件数を約10,000件と推測すると、年間1名が死亡している場合の死亡率0.01%となります。この死亡率は海外の文献で示される脂肪吸引の死亡率0.003~0.03%の範囲内に収まることが分かります。これにより、日本では年間約1名の脂肪吸引による死亡事故が発生している可能性が高いと考えられます。

脂肪吸引は安全な治療なのか?医学的根拠は?

死亡事故の報道を受け、脂肪吸引が安全な治療法であるかどうかに疑問を抱くことは自然です。しかし、脂肪吸引は確固たる医学的根拠に基づいた安全で有益な治療として広く認識されています。信頼できる医学文献に加え、米国のメイヨークリニックやクリーブランドクリニックなどの権威ある医療機関も脂肪吸引の有益性を公にしています。それらの情報源は、脂肪吸引の安全性において医師の経験と技術が非常に重要であることを強調しています。したがって、脂肪吸引は適切に行われる場合には、信頼できる治療方法であると言えます。

出典元:

Overview of liposuction by Mayo Clinic

Liposuction by Cleveland  Clinic

頬・顎・首の脂肪吸引の安全性について

頬・顎・首の脂肪吸引手術では、最も重要なのは脂肪組織以外を傷つけないことです。特に首の領域では、頸動脈などの重要な血管が脂肪の下に位置しているため、手術中は細心の注意が必要です。経験豊富な手術者は、これらのリスクを常に念頭に置きながら慎重に手術を進めます。適切に手術が行われれば、頬・顎・首の脂肪吸引は非常に低リスクで、合併症の発生はほとんどありません。メイヨークリニックのホームページでは、顎と頬の脂肪吸引の効果と安全性に関する情報が提供されています。

頬と顎の脂肪吸引の効果

↑メイヨークリニックに掲載されている頬・顎の脂肪吸引の効果

出典元:

Overview of liposuction by Mayo Clinic

今回の死亡事故が起こった要因

頬の脂肪吸引で死亡原因は気道閉塞

今回の事故で報道を通じて現時点で判明していることは、頬部の脂肪吸引後に患部の腫れがひどかったことと、窒息死したことだけです。このことからおそらく術後の内出血により気管が圧迫されて窒息死したと考えられます。気管を圧迫するほどの内出血は通常の毛細血管だけからの出血では起こり得ないので、おそらく手術中に頸動静脈系の太い血管を傷つけたのではないか、と推測します。報道では頬部の脂肪吸引とありますが、おそらく首や顎周囲も一緒に脂肪吸引しております。これからはすべて推測で書きますが、首の脂肪吸引を行って、もし頸動静脈系の太い血管を傷つけた場合、これらの血管は筋膜(広頚筋膜)の下にあるため、脂肪吸引が行われた脂肪層には出血がほとんど現れない可能性があります。脂肪吸引後は、通常、術後の内出血を最小限にするため切開した創部(通常5mm程度)から脂肪層の毛細血管からしみ出た血液を絞り出します。もしこの時点で、異常な出血が創部からあればその時点で医師は気付き、圧迫止血など必要な処置を行います。ですが、今回の事故では出血が筋膜により密閉され、切開層からは出血がなかったために、気付かずに見過ごされた可能性があります。また、もしこのように出血がなかった場合でも、しっかり術後管理ができている体制があれば、または医師が注意深く観察していれば、その後に首が異常に腫れてきたことは気付けたはずですが、おそらくこのクリニックではそういう体制ではなかったと思われます。書類送検された医師は渋谷在住で、事故があったのは大阪のクリニックなので、アルバイトのドクターだった可能性が高いです。多くのアルバイトのドクターは手術だけ行い、終わったらさっさと帰るのが美容外科では常態化しています。

首の大きな血管

↑脂肪の下にある広頚筋の更に下にはこのように大事な太い血管が多くある。ここを損傷すると大出血が起こり得る(図内の青と青の管が血管です)

書類送検された医師がとるべきだった対応

医療行為におけるミスは避けられないこともありますが、今回の事故で書類送検された医師は、脂肪吸引に伴う頸動静脈損傷や内出血による気管閉塞のリスクを十分に認識していなかった可能性があります。もしこの知識が不足していたのであれば、この医師に非難されても仕方がないと考えられます。報道によれば、この医師は術後の患者の状態を写真で確認していました。もし十分な知識があれば、患者に近隣の病院での受診を強く促すことが可能であったでしょう。適切な対応が行われていれば、避けられたかもしれない事故です。

ハーブドリームビューティークリニック(HAAB DREAM BEAUTY CINIC)とは

ハーブドリームで死亡事故

この事故があったハーブドリームビューティークリニック(HAAB DREAM BEAUTY CLINIC)のホームページには院長の医師が掲載されていますが、この院長は経営者ではありません。ハーブビューティークリニックの経営者は医師ではなくいわゆるやり手の女性経営者です。この女性経営者は地下鉄外苑前駅にあるハーブドリームビューティークリニックの駅看板に登場してる桑田真澄さんの息子のマットさん等の芸能人やインスタのインフルエンサーとの幅広い関係を活用し、SNSを通じて効果的に集客しています。その結果短期間に店舗を拡大してきました。ハーブドリームビューティークリニックに勤務している医師はホームページを見れば分かるように美容外科年数の経験が浅いが、ルックスがよいドクターを集めています。そのルックスの良いドクターが果たして十分な技術を持っているのかは分かりません。

まとめ

美容外科医専門医元神賢太医師

このように脂肪吸引手術で死亡事故が起こり、それがメディアに晒されると、脂肪吸引手術が危険な美容外科手術のように誤解されます。もちろんどんな手術にもリスクはありますが、脂肪吸引手術は、一般的には危険ではないとされています。ただし、普通の医療行為と違って、確かにその安全性は大きく医師の技術に依存します。手術を検討する際には、医師の選択に細心の注意を払うことが重要です。高い技術と経験を持つ医師による適切な手術は、リスクを最小限に抑え、望む結果をもたらす可能性が高くなります。そのため、脂肪吸引を考えている方は、医師の資格、経験年数などを慎重に検討することが推奨されます。

筆者:元神 賢太
船橋中央クリニック院長/青山セレスクリニック理事長。1999年慶応義塾大学医学部卒。外科専門医(日本外科学会認定)。美容外科専門医(日本美容外科学会認定)。美容外科医師会理事。美容外科医として20年以上のキャリアがある。

【関連項目】

下手な美容外科医とトラブルが多い美容外科クリニックが増えている理由

失敗しない美容外科医の選び方

美容外科治療を受ける場合の問題と注意点

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